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裁判の様子をイラストで伝える「法廷画家」 どんなふうに仕事をしているの?

2013年10月24日 15:40  弁護士ドットコム

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テレビや新聞の裁判のニュースで、法廷の様子を伝えるために用いられるイラストを「法廷画」という。日本では、法廷内でのカメラ撮影が厳しく制限されていて、被告人が入廷する前の冒頭シーンしか撮影が許されていない。そこで、被告人や検察官の様子などを視覚的に伝える手段として「法廷画」が用いられているのだ。


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「法廷画家になるのに、資格や許可はいりません」。そう語るのは、法廷画家として10年以上のキャリアを持つイラストレーターの榎本よしたかさん。「裁判所には"常駐の法廷画家"がいると考えている方もいるようですが、実際は私のようなイラストレーターがテレビ局などの依頼を受けて描いています」



では、どうすれば法廷画家になれるのだろうか。そもそも、法廷画家とはどのような仕事なのだろうか。榎本さんに話を聞いた。



●1回の公判で描くスケッチは約10枚


「法廷画家には、いわゆる『協会』のような組織があるわけではありません。皆、各テレビ局や新聞社等からの依頼を個別に受けているのです。



私の場合、2003年に地元・和歌山のテレビ局から連絡があったのが最初です。前任の方が高齢で廃業するというので、後任者を探していたようです。局で重役の方の似顔絵を描くよう言われて描いたところ、『法廷画を描いてほしい』と。それまで似顔絵はほとんど描いてなかったのですが・・・」



榎本さんの知人も裁判を傍聴し、そこで描いた絵をネット上で公開したところ、法廷画の依頼が来るようになったという。では、実際に依頼があってからの流れは、どうなっているのだろう。



「公判の3日前から当日までのあいだに、テレビ局から連絡が来ます。番組で事件をあつかう際、どれくらいの"尺"になるかで、法廷画が必要か否かが決まるんです。殺人事件から無銭飲食まで、あらゆる事件で依頼がありますが、ほとんどが初公判のときですね」



大事件の初公判は世間の注目度が高く、傍聴券を手に入れるのも難しいと言われるが・・・。



「希望者が多い場合は抽選になりますが、テレビ局は人海戦術を用います。50~100人で並んで引き当てるのです。私自身も並びますし、カメラマンやレポーターも同様です。傍聴券の譲渡は黙認されているので、記者と私が券を受け取り、裁判所に入ります」



法廷に持ち込むのは、スケッチブックと鉛筆、消しゴム、そして鉛筆削りだという。



「以前、鉛筆削りが見つからなかったので、刃を引っ込めるタイプのカッターを持って行ったことがありますが、無事、入れました。東京地裁以外の地方裁判所では持ち物検査がないんです。法廷に刃物を持ち込めてしまっていいのかなぁと思いましたね」



1回の公判で描くスケッチは10枚程度、1枚にかけるのは5~10分だという。席を移動したり、いったん部屋を出て、前方のドアにある小窓から被告人の顔を観察することもあると話す。



公判が終わった後、スケッチの中からテレビ局の担当者が数点を選び、榎本さんはデジタルでの着色に入る。仕上げるのに、1枚あたり1時間~1時間半。まさにスピードが要求される作業となる。



●関係者との"心の距離"を保つことは難しい


法廷画を描く際に榎本さんが心がけているのは、ありのままに伝えることだ。事実、榎本さんの法廷画では、被告人だけでなく弁護士や検察官の顔も当人に似せて描かれる。



「法廷画家は、カメラマンの代わりに公判の模様を伝えるのが仕事です。被告人を意図的に悪い人相で描くというようなこともしません」



それゆえ、検察官や弁護士の言動が印象に残ることもあるという。



「ライブドア事件のときの弁護士さんは、まるでドラマに出てくるような語り口調でした。手をバッと広げて、『これをどのように思われますか!』という風に、動きも演劇のようでしたね」



ペンを走らせているあいだも、公判中のやり取りは耳に入ってくるようだ。



「大阪で起きた姉妹殺人事件の公判を担当した日は、あまりに陰惨な内容に、仕事が終わって夜になっても、一睡もできませんでした。関係者との"心の距離"を保つことはとても難しい。そういう意味で、私は法廷画家に向いていないのかもしれません」



それでも、求められる限りは法廷画の仕事を引き受けていきたいと語る榎本さん。だが、個人的には、「映像で裁判の模様が伝えられるようになれば」と話す。



「裁判中も撮影できるかどうかは裁判ごとに決められていいはずなのに、実際はそうなっていません。『前例がないから』というわけでしょう。裁判中も撮影できる時代が来れば、法廷画家としての仕事はなくなっていくでしょう。



しかし、傍聴には『司法』という権力を監視する意味あいがありますから、より多くの人が裁判の模様を見られるようになればと考えています」


(弁護士ドットコム トピックス)