2013年10月16日 19:40 弁護士ドットコム
タクシー運転手に暴行した疑いで、現行犯逮捕されたサッカー元日本代表の前園真聖元選手。テレビでもおなじみの有名人の検挙は世間を驚かせたが、逮捕翌日の10月14日、運転手との「示談」が成立し、処分保留で釈放された。
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前園元選手は釈放されるとすぐに記者会見を開き、「社会人として、スポーツに関わる仕事をする者として、あるまじき行為」と認め、「軽率な行動により、被害者の方をはじめ、たくさんの方にご迷惑をおかけして申し訳ございません」と謝罪した。
今回の事件は逮捕翌日に釈放されるというスピード展開だったが、示談が成立したことと釈放との間には何か関係があるのだろうか。また、被害者との示談は、刑事事件にとってどのような意味があるのだろうか。冨本和男弁護士に聞いた。
「『示談』とは、民事上の争いを裁判によらないで当事者間で解決する契約です」
このように冨本弁護士は「示談」について説明する。一方、「被疑者を『釈放』するかどうかは、刑事上の問題」だという。
「逮捕は、捜査のために被疑者の身柄を拘束することです。つまり、釈放するかどうかの判断とは、言い換えれば、捜査機関が『被疑者の身柄を拘束したまま』捜査を続行すべきかどうか、の判断となります」
すなわち、事件の関係者たちが交わす契約である「示談」と国家が人を裁く「刑事手続」は、次元の違う問題だということだ。
「したがって、示談が成立すれば、必ず釈放されるわけではありません。極端な例を挙げれば、故意に人を殺した被疑者が遺族と示談できたからといって、その事だけですぐに釈放されるのは、明らかにおかしいでしょう」
だが、示談が釈放に全く影響を与えないかというと、そうでもないようだ。
「もっとも、逮捕が認められるのは、逮捕の理由と必要性があるからこそです。軽微な事案で示談が成立した場合、逮捕されている状態を維持する必要性がなくなることもあります」
冨本弁護士はこう説明したうえで、今回のケースについて、次のように解説する。
「今回は、酒に酔った上での暴行ということで、事案としては軽微でした。また、前園元選手は、罪を認めて反省し、示談も成立しています。
この場合、逃亡のおそれも証拠隠滅のおそれもないでしょう。その結果、逮捕を維持する必要性がなくなって釈放されたと考えられます」
確かにその人が逃げたり、証拠を隠したりする危険性が全くないのであれば、捜査のために身柄を拘束する必要はない。「示談」の成立は、捜査機関がそうした判断をする際の、一つの材料となるようだ。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
冨本 和男(とみもと・かずお)弁護士
離婚・債務整理等の一般民事事件を中心に業務を行っている。離婚については、離婚を求められた側の相談・弁護を主に担当している。
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事務所名:法律事務所あすか
事務所URL:http://www.aska-law.jp