2013年10月16日 18:00 弁護士ドットコム
仲間内で気軽に情報交換ができるフェイスブックの「グループページ」。同じ企業に内定した人たちが親睦を深めようと活用することも多いようだが、それを通じて企業の内定者メンバーが外部に「丸わかり」になっている事例が、多数報告されている。
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グループを管理している人が公開範囲の設定を誤ったため、参加メンバーの名前や顔写真などが、誰でも見られる状態になっていたようだ。問題が発覚したグループの多くは内定者自身によって管理されていたというが、中には管理しているのが企業の採用担当者だったケースもあるようだ。
「内定者メンバーリスト」はそもそも、世界に向けて公開するものではないだろう。特に内定を受けた後も就活を続けている人たちにとって、内定状況はとても繊細な情報だ。もしこうした状況を招いた原因が、企業担当者の設定ミスだった場合、企業側は何らかの責任を問われるのだろうか。今井俊裕弁護士に聞いた。
「フェイスブック・グループの管理を担当していたのが、企業の従業員(採用担当者等)だった場合、内定者の氏名や経歴などの情報漏えいは、企業の責任問題です。こうした情報漏えいは個人情報保護法に違反し、学生のプライバシー権を侵害することになります」
今井弁護士はズバリ指摘する。どうしてそう言えるのだろうか。
「報道で問題とされているフェイスブックのグループは、企業担当者によって『非公開』という設定がなされていたようです。
ところがフェイスブックの場合、グループを『非公開』に設定するだけでは、参加者以外にも内定者の個人情報が閲覧できてしまいます」
フェイスブック独特の用語でわかりにくいが、誰がそのグループに参加しているのかも閲覧できないようにするためには、グループを「秘密」という設定にしておかなければならないのだ。
それでは本来「秘密」に設定するべきところを、「非公開」に設定したことについて、企業側の責任をどう考えればいいのだろうか。今井弁護士は次のように説明する。
「今回の漏えいは、企業担当者の設定ミスの結果だと言えます。これによってグループに参加している内定者が何らかの不利益を被った場合は、その企業に損害賠償責任が発生する可能性もあるでしょう」
なお、「ミス」と言える根拠について、今井弁護士は次のように述べていた。
「企業担当者がどんな意識を持っていたのかや、学生に対してどのような説明をしていたのかは、わかっていません。
しかし、わざわざ『非公開』という設定を選んだということは、『個人情報・プライバシー』を保護するという意識・目的はあった、つまり設定ミスだと考えられます」
今井弁護士は続けて、こうしたリストが経団連の『採用選考に関する企業の倫理憲章』に違反する可能性も指摘する。
同憲章では《就職活動中の学生に正式内定を出すのは、卒業・修了学年の10月1日以降》と定められているのに、少なからぬ数の「内定者リスト」が、10月になる前から利用されている形跡があるからだ。
今井弁護士は「倫理憲章違反はこれまでも公然の秘密だったようですが、こうした形で実情が明らかになることは、企業として言い訳のできない失態といえるでしょう」と話していた。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
今井 俊裕(いまい・としひろ)弁護士
平成11年弁護士登録。労働(使用者側)、会社法、不動産関連事件の取扱い多数。具体的かつ戦略的な方針提示がモットー。行政における個人情報保護運営審議会、開発審査会の委員歴任。
事務所名:今井法律事務所
事務所URL:http://www.imai-lawoffice.jp