2013年10月15日 13:00 弁護士ドットコム
会社員にとっては、時間とお金が同時に手に入る有給休暇は何よりのご褒美だ。だが、現実は厳しい。休暇を取ろうと思った矢先に急ぎの仕事が入ったり、同僚が体調を崩したり……あれこれするうちに「未消化」のまま年度末を迎えるという人も多いだろう。
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厚労省の調査では、日本企業の2011年の平均年次有給休暇は18.3日。ところが実際に取得されたのは9日と、大きな隔たりがある。せっかくの制度も、これでは絵に描いた餅だ。
だが、有給休暇はもともと「労働者の権利」のはず。仕事の都合でとれないというのは、そもそもおかしい。ならば、せめて「使い切れなかった有給休暇を会社に買い取ってもらう」ことはできないのだろうか。労働問題にくわしい畠山晃弁護士に聞いた。
「有給を買い取ってもらうことは、就業規則などで認められていれば可能です。しかし《使い切れなかった有給休暇を使用者に買い取ってもらう権利》は、法的に認められた権利ではありません」
畠山弁護士はこう説明する。なぜ認められないのだろうか。
「有給休暇は、労働からの解放や疲労回復が目的……言い換えると、使用者(会社)は『労働者を現実に休ませるべき』だと考えられてきました。この観点からすれば、買い取り制度は『有給取得を妨げる制度』として、否定的に捉えられます。
実際に、年次有給休暇を買い上げると『予約』し、年次有給休暇の日数を減らしたり、請求された日数を休暇として与えないことは、労働基準法39条違反だと考えられています(昭和30年11月30日基収4718号)」
確かに、もともと「休む権利」なのだから、本来の形で使えるのが一番良いだろう。
「例外的に、有給が買い取り可能と考えられている場合もあります。たとえば、法定年休以外に付与された年休、退職時の年休、時効消滅した年休などです。
しかし買い取り可能な場合でも、高すぎる買い取り価格の設定などは問題視されます。つまり、そうしたケースでも、まずは現実に休ませるべきで、取得を妨げることは望ましくないと考えられているのです」
実際に「仕事を休む」ことは、それだけ大切だと考えられているようだ。ただ、現実の取得率などを見る限り、結果的には労働者が「損」をしているだけにも思える。
「昨今は、労使協定・協議などによって、計画年休制度を作ったり、失効年休を積み立てて病気の際に使える制度を導入するなど、様々な取り組みがなされています。買い取り制度を設ける場合もあるでしょう。
しかし現実には、それが不可能な職場も多く、個人でやりくりをするしかない……というケースが多々あります」
それでは、個人として「損」をしないための対策はあるのだろうか。
「月並みですが、次のような対策でしょうか。
(1)会社の就業規則を確認して、自分の年次有給休暇をきちんと把握する
(2)使い切れなかった年休権の翌年度繰り越し、時季指定権、時間単位の年次有給休暇の取得(労使協定による)など、職場の制度を活用する
(3)職場の人達と協力して、意識的に有給休暇を取るようにする
有給休暇については、法定のものに加え、法定外のものもあることや、一定の要件にあてはまるパートタイム労働者にも一定程度付与されること、などの点が見過ごされがちなので、注意すべきでしょう」
畠山弁護士は「きちんと休みメリハリのある生活を送ることは、仕事上も有益です。また、有給を取得するための仕事調整が、チームワークを強くする可能性もあります」として、実際に有給休暇を取得することが個人と企業、両方のメリットになる、と強調していた。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
畠山 晃(はたけやま・あきら)弁護士
第一東京弁護士会・法律相談運営委員会、人権擁護委員会等。各種専門事務所にて種々の専門的損害賠償請求事件、企業法務等にかかわる。現在労働事件をはじめとする各種事件を中心に活動。働く職場での自己実現も自らリスクをとり起業することも同一人の選択であるとの考えから、双方の法的支援にも力を入れている。
事務所名:畠山法律事務所
事務所URL:http://www.hatakeyamalaw.com/