2013年10月09日 18:10 弁護士ドットコム
佐賀県はこのほど、《2014年度から全ての県立高校入学生にタブレット端末を購入させる》と決めた。価格が5万円を超えるのは確実ということで、そのうち5万円分を生徒が負担し、超過分は県が補助するという。思い切った取り組みだが、ネットでは「5万円の自己負担額は高すぎる」と、もっぱら話題となっている。
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佐賀新聞によると、端末のOSはウィンドウズ8 Pro。各家庭の経済状況に配慮した補助制度は創設せず、分割払いができるかどうかも「検討中」という。自己負担の5万円には、デジタル教材費も含まれているが、授業で使う全教材がデジタル化されているわけではなく、別途教科書などの購入も必要だという。
進学すれば何かとお金がかかる。制服に教科書、参考書、部活の道具など、新たに揃えなくてはならないものがいくつもある。そこに一律5万円の負担が加われば、家計への影響は大きい。入学後に購入を拒否したり、「もっと安いタブレットを使う」と主張することはできないのだろうか。IT(情報技術)に関する法律問題にくわしい落合洋司弁護士に聞いた。
「高校教育は義務教育ではありません。教育を行う上で必要だと運営者が考えて決定した教材費を、教育を受ける側が拒否することは、公立高校といっても、『よほどの裁量逸脱』がない限り難しいでしょう」
どうやら、授業に使う機器の購入を、生徒側が一方的に拒否するというのは難しいようだ。
ただし……落合弁護士は続ける。
「佐賀で起きている問題は、今後のIT教育の在り方や費用負担の限界を考える上で、検討すべき点を含んでいると思います」
それはどんなことだろうか。
「ITの重要性を理解し、それに慣れ親しんで活用できるように、必要な教育を行うべきことは明らかです。しかし、まだ歴史の浅い分野であり、『何を』『どの程度まで』教えるかについては、コンセンサスができていない面があります」
確かに、《現在必要とされているこの教育をするためには、この機器が必須だ》という社会的合意ができていないからこそ起きる議論……という気がする。
落合弁護士は続ける。
「こういった機器は、現状で、様々な製品が販売され、性能も価格も多様です。ただし、その中には、価格が比較的低く、かつ性能も高く好評を博しているものもあります。
高校生に対するIT教育を実施するにあたっては、高度な内容を追及するために高価な機器を導入しても、結局は消化不良を起こすのではないか、出費に見合った効果が得られないのではないか、といった観点での検討も、十分にされるべきでしょう。
着眼大局、着手小局と言いますが、佐賀の問題については、まずは無理のないところから堅実に始め、生徒の負担をもっと抑えるべきではないかという印象を受けています」
落合弁護士はこのように話していた。
タブレット機器を使ってどのような教育を行おうとしているのか、また、それを実施するために最適なのはどういった製品なのか。そうした議論がより幅広く行われ、コンセンサスが形成されるには、もう少し時間が必要なのかも知れない。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
落合 洋司(おちあい・ようじ)弁護士
1989年、検事に任官、東京地検公安部等に勤務し2000年退官・弁護士登録。IT企業勤務を経て現在に至る。
事務所名:泉岳寺前法律事務所
事務所URL:http://d.hatena.ne.jp/yjochi/