2013年10月07日 17:31 弁護士ドットコム
歌手の宇多田ヒカルさんが、ツイッターに「マスコミ恐怖症になった」と投稿し、ネット上で話題になっている。宇多田さんは8月に母・藤圭子さんを亡くし、関連する報道が盛んにされているが、いきすぎた取材に走る記者もいるようだ。
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ツイッターに9月18日に投稿された内容によると、宇多田さんは週刊誌の記者に突撃され、「一週間家に張り着いて尾行してた」と告げられた。さらに、最近の交友関係などを聞かれたが、「なんかもう怖くて気持ち悪かったので一言も答えなかった」という。これまではマスコミに対して「彼らも仕事だし」と思っていたが、「今回の一連のことで完全にマスコミ恐怖症になってしまった」と綴っている。
ニュースになっている芸能人が過剰なマスコミ取材によって、私生活もままならないような状態になることは度々ある。だが、今回の宇多田さんのケースのように、「尾行しています」と直接告げられるのはかなりの恐怖だろう。このような取材は、法律的に問題ないのだろうか。日弁連の「報道と人権に関する調査・研究特別部会」の会員でもある秋山亘弁護士に聞いた。
●著名人への取材も「違法性を帯びる」場合がある
「このような事態は、かねてから『メディアスクラム』(集団的過熱取材)として、メディア内部や弁護士会からも、問題視されてきました」
秋山弁護士はこう切り出した。どのような問題が指摘されているのだろうか。
「著名人は、一般市民と異なり、プライバシーが制限される場合もあることは確かです。
しかし、公益性や公共性が少ない事柄について、四六時中尾行して取材を迫るという行為は、取材方法としての相当性を逸脱したもの――つまり『不適切な行き過ぎ取材』として、違法性を帯びる場合もあると考えられます」
●親子間のプライベートな問題は公共性に乏しいテーマ
「今回のケースでは、取材者側の意図は、母を亡くしたことに対する宇多田さん自身の心境などを取材したいということだと考えられます。
しかし、このような親子間のプライベートな問題は、そもそも公共性に乏しいテーマと考えられます。しかも、宇多田さんは母を亡くした直後の心境を、自分自身の言葉で既に公表していました。
そういったことを踏まえると、今回のように執拗に何度も取材することに『公共的な必要性がある』とまでは認められないのではないかと考えられます」
伝えられている様子を聞くと、今回の取材は「マスコミ慣れ」した宇多田さんにとってすら、想像を超える内容だったようだ。
「『一週間家に張り着いて尾行した』という取材方法もさることながら、それをあえて宇多田さんに告げるのは、取材対象者に対して著しい不安感・恐怖心を与える言動です。取材方法の相当性を逸脱するもの、と評価できます。
したがって、本件のような付きまとい取材は、取材の動機や方法が相当ではなく、『違法性を帯びる可能性が高い』と言えるでしょう」
秋山弁護士はこう結論づけた。
公共性の高い話題については、マスコミの使命として、どうしても取材しなければならない――ということはあるだろう。しかし、そうであるならなおのこと、今回のようなケースでの「過熱取材」は避けるべきだと言えるのではないだろうか。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
秋山 亘(あきやま・とおる)弁護士
民事事件全般(企業法務、不動産事件、労働問題、各種損害賠償請求事件等)及び刑事事件を中心に業務を行っている。日弁連人権擁護委員会第5部会(精神的自由)委員、日弁連報道と人権に関する調査・研究特別部会員。
事務所名:三羽総合法律事務所