2013年10月07日 16:31 弁護士ドットコム
自分の持っている本や雑誌をスキャナーと呼ばれる機械で読み取り、電子書籍化する「自炊」。これを請け負う業者の「自炊代行」が著作権侵害にあたるかどうかが争われた裁判で9月末、東京地裁は著作権侵害を認め、都内の2業者に複製差し止めと計140万円の損害賠償を命じた。
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著作権法は、本の所有者が自分自身で行う個人利用目的の自炊を「私的複製」として認めている。一方、自炊代行業者は、個人から本を受け取り、ページごとに分割したうえ、機械で読み込み、電子書籍化するという作業を「有償」で請け負っている。
今回の裁判で、業者側は「本の所有者から依頼を受けただけ」「業者はあくまで補助的な立場だ」と主張していた。しかし、判決は「複製を中心的に行なっているのは代行業者」と認定、自炊代行は「個人利用目的の複製とはいえない」として、著作権侵害を認めた。自炊代行業者への複製差し止めが認められたのは初めてだ。
浅田次郎さんや東野圭吾さんら著名な作家が原告となったことでも注目を集めたこの裁判。「差し止め」まで認めた判決を、専門家はどう見ているのだろうか。著作権問題にくわしい井奈波朋子弁護士に聞いた。
●本を「複製」する上で、一番重要な行為をしているのは「自炊代行業者」
「『自炊代行』には、複数の段階があります。
(1)まず、利用者が、業者に本の電子化を申し込み、業者に本を送付します。
(2)業者が、スキャンしやすいように本を裁断します。
(3)業者が、裁断した本をスキャナーで読み込み電子ファイル化します。
(4)業者は、利用者に電子ファイルをダウンロードさせるか媒体に記録して送付し、電子ファイル化した成果物を納品します」
自炊代行は、このように4つの段階に分けることができるようだが、このように分けると、何が見えてくるのだろうか……。
「これら一連の行為のうち、著作権法でいう『複製』において、最も重要なのは(3)の本をスキャナーで読み込んで電子ファイル化する行為です。
この一番重要な(3)の行為を行っているのは誰か。それは、自炊代行業者です。
一方で利用者は、電子ファイル化という作業自体には、全く関与していません」
そうなると、結論としては……。
「自炊代行業者は、本の所有者に依頼され、利用者に代わって自炊を行っているとはいえ、直接的に複製行為を行っていることは否定できません。
したがって、自炊代行業者による著作権侵害を認めた今回の判決は、当然といえます」
井奈波弁護士はこう結論づけた。
●「新しいルール」を模索する動きも……
一方、デバイスの高性能化、低価格化の流れからいうと、「きちんと購入した本を、タブレットなどのデバイスでも読みたい」というニーズは、今後ますます増えてくるのではないだろうか。
「今回の判決で、無許諾での自炊代行が違法であることは、明確になりました。
他方、自炊代行の業界団体と出版関係者との間で、自炊代行に関する新たなルール作りを模索する動きもあります。
蔵書の電子化のため自炊代行に対するニーズがあるのも確かです。出版関係者も納得のいくルールを作り、適法な新事業への途をひらく方向性もあるのではないかと思います」
井奈波弁護士はこのように述べていた。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
井奈波 朋子(いなば・ともこ)弁護士
出版・美術・音楽・ソフトウェアの分野をはじめとする著作権問題、商標権、ITなどの知的財産権や労働問題などの企業法務を中心に取り扱い、フランス法の調査、翻訳も得意としています。
事務所名:聖(しょう)法律事務所