2013年10月05日 14:51 弁護士ドットコム
自治体が回収するはずだった古新聞・古雑誌などが、集積所から勝手に持ち去られるのを防ごうと、各地の自治体がGPSを使った「捜査」に乗り出している。「古新聞の束」にGPSを仕掛け、追跡して流通ルートを割り出すという手法だ。持ち去る側ではなく、買い取り業者側に「買い取らないで」と要請することで、流通そのものを難しくするのが狙いだという。
【関連記事:半沢直樹のマネ? 「しまむら」店員への「土下座強要」は法律的にどうなのか?】
背景には中国での需要増などから、古紙の買い取り価格が高止まりしていることがあるようだ。都リサイクル事業協会の試算だと、都の「被害推計」は2009年度で約15億円(持ち去られた古紙価格と回収コストの合算)にのぼるようだ。古新聞・古雑誌というと一般人からすると、ゴミに近い感覚だが、その金額を聞いたとたん宝の山にも思えてくるのが不思議だ。
そうなると、古紙を集積所から勝手に持ち去る行為も「盗み(窃盗)」に当たると言えるのだろうか。また、いったん集積所に置かれた古紙は、いったい誰のものなのだろうか。湯川二朗弁護士に聞いた
●ゴミは本来、誰のものでもない「無主物」
「古紙は、普通はもういらなくなったから捨てるもの、すなわち、不要物であり廃棄物(ゴミ)です。
財産的価値はあるかもしれませんが、捨てられた(=所有・占有を放棄した)ものですから、誰のものでもない無主物です」
誰のものでもないとすれば、自由に持ち去れるのだろうか。古紙回収にはいくつかのパターンがある。まず、その地区の住民たちが共同で資源回収にあたっている場合はどうだろうか。
「自治会やPTAなどの集団資源回収のために家庭から出された古紙は、業者に譲渡するために、一時的にゴミ集積所に置かれただけのものです。
したがって、まだ排出家庭が所有していて、自治会やPTAなど集団回収をする人が占有していると言ってよいでしょう」
つまり、《資源》を集団回収のために集めている段階であれば、それを勝手に持ち去るのは窃盗にあたるといえそうだ。
●ステーションの資源物について、条例を定めている自治体もある
それでは、一般的な分別収集だとどうだろう。
「ゴミの分別収集のために、ゴミとして集積所に出され、ゴミとして収集される古紙は、無主物だと考えられます。
ただし、分別収集に出された古紙は、住民と行政がリサイクル目的で出すものだから、行政の管理下にあるステーションで、行政に占有が譲渡されるという考えもあるようです」
誰のものでもないゴミとも考えられるし、譲り渡された資源とも考えられる……。どうやらこのあたりは、ハッキリとした正解が判別しづらいライン上の問題と言えそうだ。
「そこで自治体によっては、行政に所有・占有があることを明確にするために、条例で、ステーションに出された資源物の所有権は行政に帰属することを定める例もあります。
ただし、所有権・占有権は物権ですから、国が定める『法律』でしかその内容は定められない(民法175条)ので、地方自治体の『条例』でその内容を定めることには疑問もあります」
●自治体がGPSで古紙の行方を追跡する「背景」
湯川弁護士は続ける。
「こうやって見ていくと、古紙の持ち去りが『窃盗にあたる』というのはなかなか難しい問題があることが分かります。
古紙がひもで結束され、置き場所も区別されていて、分別収集や集団回収にあてられるものであることが明示されていて、条例が定められている場合以外は、窃盗に問うのは難しいのではないでしょうか」
それでは、古紙持ち去りが、他の犯罪になる可能性はあるのだろうか。
「これまで古紙の持ち去りが刑事罰で処罰されたのは、私の知る限り、指定業者以外のステーションから古紙回収することを禁じた『条例』が定められて、その条例に違反したという事件だけです。
古紙の持ち去りにGPSで対抗するのも、これを直接規制することは困難であるため、このような手法を用いたのだと考えられます」
湯川弁護士はこのように締めくくった。なぜわざわざ、GPSまで持ち出して対処を行わなければならないのか……。行政側が苦慮する背景には、こういった事情もありそうだ。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
湯川 二朗(ゆかわ・じろう)弁護士
京都出身ですが、東京の大学を出て、東京で弁護士を開業しました。その後、福井に移り、さらに京都に戻って地元で弁護士をやっています。なるべくフットワーク軽く、現地に足を運ぶようにしています。
事務所名:湯川法律事務所