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容疑者の身元が分からないので「氏名不詳のまま起訴」 どうやって裁判をするのか?

2013年09月27日 18:10  弁護士ドットコム

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警察は容疑者を逮捕した。ところが、その「身元」がさっぱり分からない……。こんなケースがあるようだ。


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報道によると、北九州市内で84歳の女性に暴行を加え、けがをさせた疑いで逮捕された容疑者の身元が判明せず、警察が困惑しているという。容疑者は「高田真子」と名乗り、住所や出身高校や高校時代の友人名なども供述したが、住所は無関係で、卒業名簿にそれらの名前はなかった。捜査関係者は「うそというより、自分の話を信じ込んでいるようにみえる」「氏名不詳のまま起訴するしかない」と話していたという。



「容疑者が黙秘しているため、名前や住所が判明しない」というケースは、ちらほらあるようだが、そのような状態で裁判に支障は生じないのだろうか。刑事裁判の冒頭には、裁判官が「あなたは誰々ですね」と人定質問があるのが通常だが、身元不詳の被告人に対してはどんな風に尋ねるのだろうか。刑事事件にくわしい萩原猛弁護士に聞いた。



●被告人が身元不詳の場合も決まった手続きがある



「刑事裁判にかけることを『公判請求』とか『起訴』と言います。起訴するのは『検察官』で、容疑者は『被告人』と呼ばれます。検察官は起訴の際、『起訴状』を作成して裁判所に提出します。



この起訴状には、検察官が処罰すべきと考える『犯罪事実』と同時に、被告人を特定するための情報、通常だと被告人の氏名・生年月日・本籍・住居・職業が記載されます」



それでは、今回のように氏名が分からず、身元も不明な場合、起訴状にはどのような記載がされるのだろうか。



「刑事訴訟法は『被告人の氏名が明らかでないときは、人相、体格その他被告人を特定するに足りる事項で被告人を指示することができる』としています(刑事訴訟法64条2項)。



検察官は、起訴状の氏名欄に『氏名不詳』と記載した上、被告人の人相・体格などを具体的に記して、被告人の写真を添付するのが通常です。また、被告人が勾留されている場合には、留置番号が表示されます。たとえば『新宿警察署留置番号5番』といった具合です」



●裁判では「人定質問」の代わりに、写真や身体的特徴でチェックされる



「また、刑事裁判では、第1回公判期日の冒頭に、裁判官は、出廷した人物と起訴状に被告人として記載されている人が、同一人物であるかどうかを確認しなければなりません(刑事訴訟規則196条)。



これを『人定質問』といいます。通常は、氏名などを問うことによって確認していますが、今回のようなケースでは、裁判官は、起訴状に記載された被告人の身体的特徴や添付された写真と出廷した人物を照らし合わせて確認することになります」



こうした「対処法」が決まっているのなら、被告人の氏名が分からなくても、裁判はつつがなく行えそうだ。ただ、その人がもし本当に「自分自身を架空の人物だと思い込んでいる」のだとしたら、取り調べや尋問は相当面倒なことになりそうな気はするが……。


(弁護士ドットコム トピックス)



【取材協力弁護士】
萩原 猛(はぎわら・たけし)弁護士
刑事弁護を中心に、交通事故・医療過誤等の人身傷害損害賠償請求事件、男女関係・名誉毀損等に起因する慰謝料請求事件、欠陥住宅訴訟その他の各種損害賠償請求事件等の弁護活動を埼玉県・東京都を中心に展開。
事務所名:大宮法科大学院大学リーガルクリニック・ロード法律事務所
事務所URL:http://www.takehagiwara.jp/