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裁判所のミスを誘発するほど紛らわしい? 「未遂罪」と「予備罪」の違いは何か

2013年09月21日 17:51  弁護士ドットコム

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実は時効が成立していたのに、被告人に「有罪判決」が宣告されるというミスが、東京高裁で起きた。


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もともとの事件は、被告人が2008年にウナギの稚魚をスーツケースに隠して中国に輸出しようとしたところ、空港で阻止されたという内容だった。被告人は関税法違反(無許可輸出)の「未遂罪」で起訴され、裁判がおこなわれた。だが、税関職員に気づかれたのが「スーツケースを航空会社職員に預ける前」だったことから、東京高裁は「未遂罪」ではなく「予備罪」に留まると認定し、8月6日の判決公判で有罪判決を言い渡した。



ところが、これは本来ありえない判決だった。被告人が起訴されたのは、事件発生後4年以上経った時点だった。法律上、無許可輸出の未遂罪の公訴時効は5年なのに対し、予備罪の時効は3年だ。つまり、予備罪の時効はすでに成立しており、本来なら有罪ではなく、免訴(裁判打ち切り)とされるべきケースだったのだ。



今回のミスは、未遂罪と予備罪との微妙な差に由来すると言えそうだが、2つの違いはどこにあるのだろうか。また、そもそも「予備罪」とは、どんな罪なのだろうか。刑事事件にくわしい神原元弁護士に聞いた。



●犯罪の準備をしたら「予備罪」、犯罪に着手したら「未遂罪」



――予備罪って、具体的にはどんなもの?



「《殺人》の場合を例にあげると、殺人のためにピストルを購入したり、被害者宅を見に行く行為を指すことになります。自分が行う犯罪のために準備する行為は、ほぼこれに当たります。



より正確に言うと、予備罪は《犯罪の実行の着手に至らない行為であって、犯罪実行を目的になされた、犯罪の完成に役立つ行為》(平野龍一「刑法Ⅱ」339頁)と定義されています」



――未遂罪は?



「これに対し、未遂罪は《犯罪の実行に着手してこれを遂げなかった場合》(刑法43条)です。



たとえば、『殺人のためにピストルを撃ったが、当たらなかった』という場合が、これに当たるでしょう」



――2つの犯罪はどこが違う?



「予備罪と未遂罪を分けるポイントは、『犯罪の実行に着手』したか否か、ということになります。すなわち、犯罪の実行に着手すれば未遂罪、準備だけで着手していなければ予備罪です」



――「犯罪の実行に着手」とは、具体例でいうと?



「殺人なら、ピストルを人に向けて引き金に指をかければ、実行に着手したと言っていいでしょう。



では、強盗ならどうか、例に挙がっている関税法違反ならどうか……と考えていくと、一律に基準を示すのは非常に難しいですね。



実際には、それぞれの犯罪類型によって、個別具体的に判断する以外になく、具体的には裁判例の積み上げにより基準を作っていくほかないとされています」



つまり、何をすれば「未遂罪」、どういう状態なら「予備罪」なのかは、犯罪の種類によって異なるということだ。刑罰の重さも違うだけに、判断ミスは絶対に避けてもらいたいが……。


(弁護士ドットコム トピックス)



【取材協力弁護士】
神原 元(かんばら・はじめ)弁護士
早稲田大学政治経済学部政治学科卒業、2000年に弁護士登録(横浜弁護士会)、2000年 川崎合同法律事務所入所、2010年武蔵小杉合同法律事務所開所。日弁連取調可視化実現本部委員、横浜弁護士会刑事弁護センター委員。
事務所名:武蔵小杉合同法律事務所
事務所URL:http://www.mklo.org/index.html