2013年09月21日 14:21 弁護士ドットコム
英語ができない社員は去れ! そうとでも言わんばかりに、社員に「英語力」を求める会社が増えている。英語力をはかるテスト「TOEIC」の点数が勤務評定に直結したり、出世に響いたりすることも多いという。英語が苦手な人にとっては、悩みのタネになるケースも増えているようだ。
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『週刊プレイボーイ』(9月2日号)は、あるサラリーマンの「私の会社では半年に一度、社員全員の勤務評価があります。私の営業成績は常にトップクラスなのですが、会社が求めるTOEICのスコアがクリアできないため、ずっと昇進できないのです」という嘆きを伝えている。
このように、実際の業務と関連性の薄いTOEIC受験を義務付け、勤務評定で「英語力」を重視することに問題はないのだろうか。労働問題にくわしい靱(うつぼ)純也弁護士に聞いた。
●昇進見送りが「人事権の濫用」にあたるケースは珍しい
「英語力を理由に昇進・昇格が見送られたとしても、現状では原則として、違法とまで評価することは困難です」
――なぜ?
「会社が従業員の位置づけや役割などを決定する権利を『人事権』と言います。
昇進の見送りなどの人事考課を『違法』というためには、それが『人事権の濫用』と認められる必要があります。しかし、質問にあるようなケースで濫用が認められるのは困難でしょう。
なぜなら、人事権は経営上の裁量判断に属しており、会社に広汎な裁量権が認められているからです」
――会社が持つ人事権の裁量範囲は、どれぐらい幅広い?
「たとえば会社は、就業規則に規定がなくても従業員を降格させることができます。課長を主任に降格させるような、役職の降格も認められています。
もちろん、業務上の必要性や労働者の被る不利益などから判断し、『人事権の濫用』と評価される場合は違法とされますが、実際に違法とされる例は多くありません」
●業務と関係ないTOIEC結果だけが理由の「降格」なら違法になる可能性も
――それでは「違法とされる場合」というのは、どんな例が考えられる?
「職能資格の降級は直接賃金の減額に結びつくので、少なくとも賃金減額の可能性について就業規則上明記されている必要があります。また、降級を決定する過程の合理性や公正な手続きが保障されていることが望ましいといえます(東京地裁判決H16.3.31)。
このため、(1)そもそも降級の可能性が就業規則等に明記されていない場合や、(2)現在及び将来の業務に英語が必要ないにもかかわらずTOEICの点数のみを理由に降級する場合は、違法となる可能性もあります。
また少し話は違いますが、英語力による評価は建前で、実際には組合差別や性差別を図った……というような場合も違法とされるでしょう」
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
靱 純也(うつぼ・じゅんや)弁護士
大手銀行、製薬会社勤務を経て2004年弁護士登録。交通事故、労働事件、債務整理、企業法務などに幅広く対応。気軽に相談できる弁護士を目指し無料法律相談に力をいれている。
事務所名:あゆみ法律事務所
事務所URL:http://www.ayumi-legal.jp/