2013年09月18日 12:21 弁護士ドットコム
「おめでとう東京」もアウト?――2020年のオリンピックが東京で開催されることが決まり、お祝いムードが広がるなか、思わぬ「待った」がかかるかもしれない。日本オリンピック委員会(JOC)の公式スポンサー以外の企業や商店が、オリンピックを想起させるような言葉を使うことは、知的財産権の侵害にあたるというのだ。
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「JOCがアウトとする使用例」として、JOCの姿勢を報道した朝日新聞があげているのは次のようなフレーズだ。
「おめでとう東京」「やったぞ東京」「招致成功おめでとう」「日本選手、目指せ金メダル!」
つまり、JOCが商標登録している「オリンピック」という言葉を使わなくても、権利侵害にあたる可能性があるという主張だ。だが、「おめでとう東京」という言葉まで自由に使えないなんて、いきすぎではないのか。ネットでは、「心底アホくさい」「経済効果が疑わしくなる」「どこにそんな権限があるんだろ」と批判する声が多数あがっており、弁理士の栗原潔さんもブログで「法的根拠がよくわかりません」と疑問を呈している。
はたして、JOCが「アウト」という使用例は、本当に法律上も「アウト」なのだろうか。それとも、JOCの願望にすぎないのだろうか。知的財産権にくわしい岩永利彦弁護士に聞いた。
●「おめでとう東京」という言葉は「商標登録」されていない
「まず、特許電子図書館で、朝日新聞が報道した使用例の言葉を検索してみましたが、JOCやその上部団体であるIOC、招致委員会の登録商標としては見当たりませんでした。一般的にも、これらの言葉は、キャッチフレーズにあたり、自分の商品等を区別する機能に欠けるといえ、そもそも商標法上、商標登録できないものと考えられます」
このように岩永弁護士は述べる。つまり、「おめでとう東京」といった言葉が商標登録されているわけでないし、そもそも商標登録できるような性質ではないということだ。そのようなことから、これらの言葉は「不正競争防止法でいう商品等表示にもあたらないでしょう」と岩永弁護士は指摘する。
「つまり、これらの使用例は、知的財産権の侵害とならないと思います」
さらに、知的財産権の侵害とならなくても一般不法行為にあたる可能性があるとのことだが、その点についても、「さきほど述べたようなキャッチフレーズ性を考慮すると、一般不法行為にも該当しないでしょう」という。
「結局、朝日新聞が報道した『おめでとう東京』などの使用例は、確定した権利性のない、単なるイメージにすぎないと言えます。そのようなものは、保護されにくいのです」
●「オリンピックのために、JOCはもっと鷹揚に考えてほしい」
岩永弁護士は「朝日新聞が単に勇み足の報道をしただけなのかもしれませんが・・・」と断りつつ、「報道された使用例について、JOCが知的財産権の侵害とするのであれば、それはいささか言い過ぎだと考えます」と述べている。
「知的財産権にもとづき法的措置をちらつかせるのは、根性論にもとづき体罰をちらつかせるのと似ているように感じます」。こう指摘しながら、岩永弁護士はJOCに対して次のように要望している。
「JOCは『五輪のマークを預かる者はかくあるべし』というイメージにがんじがらめになっているのかもしれませんが、あまり窮屈に考えすぎると、せっかくのオリンピックの楽しさが半減してしまいます。JOCにはもっと鷹揚に考え、物事を大目に見るということを望みたいですね」
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
岩永 利彦(いわなが・としひこ)弁護士
ネット等のIT系やモノ作り系の技術法務、知的財産権の問題に詳しい。
メーカーでのエンジニア、法務・知財部での弁理士を経て、弁護士登録した理系弁護士。
事務所名:岩永総合法律事務所
事務所URL:http://www.iwanagalaw.jp/