2013年09月17日 14:40 弁護士ドットコム
作家の曽野綾子さんが週刊誌の記事で、企業で働く女性に対し、出産したら会社を辞めるよう提言して、波紋を広げている。
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掲載されたのは「週刊現代」8月31日号。曽野さんは、マタニティ・ハラスメントやセクハラといった言葉について「汚い言葉ですね」とコメントし、「そもそも実際的に考えて、女性は赤ちゃんが生まれたら、それまでと同じように仕事を続けるのは無理なんです」と主張する。
さらに、「女性は赤ちゃんが生まれたら、いったん退職してもらう。そして、何年か子育てをし、子どもが大きくなったら、また再就職できる道を確保すればいいんです」「出産したらお辞めなさい」と説いている。産休制度についても、「会社にしてみれば、本当に迷惑千万な制度だと思いますよ」と持論を展開している。
昨今の風潮からするとかなり前時代的な提言に見えるが、産休制度を否定し、出産するなら会社を辞めろ、というのは法律的にどうなのだろうか。労働問題にくわしい白鳥玲子弁護士に聞いた。
●産休制度の否定は、労基法や雇用機会均等法に違反する
「曽野さんは、記事の中で『いまの産休制度は見直しが必要だと思います』と指摘しておられますから、現行法下での産休制度の否定は法律違反だということは十分にご存じの上での発言だと思います」
このように断ったうえで、白鳥弁護士は「産休制度の否定は、産休について定めた労働基準法65条に違反しますし、男女雇用機会均等法にも違反します」とキッパリ言う。
たとえば、男女雇用機会均等法9条には「事業主は、その雇用する女性労働者が妊娠したこと、出産したこと・・・を理由として、当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない」と明確に書かれている。曽野さんは「女性は赤ちゃんが生まれたら、いったん退職してもらう」と言うが、会社が出産を理由に女性社員を解雇したら、明らかな違法行為になってしまうのだ。
「こうした法律上の強い保護があっても、出産した女性の約5割が退職しているのが実情です。最近、妊娠した女性や出産後も働こうとする女性に対する風当たりが強くなっていますが、こういう風潮は滅私奉公を求める『ブラック企業』の精神とつながるものを感じます」
●出産後も働きたい女性は8割を超える
このように憂慮しながら、白鳥弁護士は次のように指摘している。
「今回の曽野さんの発言に対して、心理的に同意したくなる方もおられると思います。しかし、病気などで仕事をセーブしなければならなくなることは誰にでも生じうるわけですから、労働者同士が反目しあうのは、自分たちの首を絞めかねないのではないかと思います。
他方で、会社経営にとってはマイナス面が生じることは否めませんから、政府には、企業への助成も含め、よりいっそうの少子化対策が求められるのではないでしょうか」
政府が作成した少子化社会対策白書(平成25年版)によれば、出産後も何らかの形で働きたいという女性の割合は86%にのぼるということだ。そのような大多数の女性の希望を無視して、「出産したらお辞めなさい」というのは、やはり暴論といえるのではないだろうか。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
白鳥 玲子(しらとり・れいこ)弁護士
茨城県つくば市出身。2005年弁護士登録(東京弁護士会)。労働事件(労使双方)を専門とするほか、遺言書作成・遺産分割・離婚・成年後見等の家事事件が多数。保険会社の代理店顧問を務めており、交通事故案件も多い。一児の母として子育てにも奮闘中。
事務所名:城北法律事務所
事務所URL:http://www.jyohoku-law.com/