2013年09月16日 15:30 弁護士ドットコム
9月10日に合格発表があった司法試験。ニュースでは「法科大学院別の合格率ランキング」も注目を集めた。ところが、大阪で開業する川原俊明弁護士は「報道されているランキングは不適切だ」と指摘する。弁護士ドットコム編集部が川原弁護士の主張に沿う形で集計してみると、トップ3は「千葉大、愛知大、一橋大」。従来のランキングからは見えてこなかった「真の実力校」の存在が明らかになった。
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●「司法試験の合格率は、法学既修者と未修者を区別して発表すべき」
そもそも、川原弁護士の指摘は、どういう内容なのだろうか。
実は、法科大学院(ロースクール)には、過去に法律を学んだことのある法学部出身者などを対象とする「既修コース」と、初めて法律を学ぶ人が対象の「未修コース」がある。そして、多様な人材を法曹の世界に送り込むという法科大学院の狙いからすれば、未修コースこそが新制度の主眼とされていた。
法務省発表の資料でも「未修」と「既修」はしっかりと区別されている。しかし、多くのマスコミはこれを区別せず、学校別の合格者数と合格率だけを伝えていた。
その何が問題なのか。川原弁護士は9月14日に公開したブログでこのように指摘する。「試験内容は同じなので、(司法試験の)合格率は当然既修コース組が高くなります」。それにも関わらず未修・既修を区別しないランキングで法科大学院が評価されるようになれば、学校側は「合格率を上げるために既修コースに多く入学させ、未修コース入学者を極力抑えようとします」というのだ。
つまり、未修コースの合格率を無視したランキングの発表は、多種多様な法律専門家を育てるという法科大学院の「制度を歪め」てしまうことになるという。川原弁護士はこう主張し、司法試験合格率を報道するときは、「既修コースと未修コースを分けて伝えるべきだ」と、メディアに要望している。
●千葉・愛知・一橋の「未修者合格率」は特筆すべき数値
実は、弁護士ドットコムの記事も、司法試験の合格発表当日に法科大学院別の合格者と合格率のベスト10を記事にまとめた際、既修と未修の区別はしなかった。そこで、改めて、既修コースと未修コースに分けて、法科大学院ごとの合格率を紹介したい。
既修者と未修者それぞれの合格率ベスト10は以下のとおりだが、その順位は既修と未修で大きく異なっていることがわかる。既修コースのトップ3は、東京大(71.9%)と慶応大(71.3%)、京都大(62.1%)なのに対して、未修コースのトップ3は、千葉大(47.4%)、愛知大(41.7%)、一橋大(40.5%)と、まったく違う結果となっている。
特徴的なのは、既修のトップ3がいずれも受験者数が200人を超える大規模校なのに対して、未修のトップ3はどれも、受験者数が150人未満の小規模校な点だ。特に、千葉大は受験者が65人、愛知大は28人であり、「少数精鋭」という印象を受ける。
川原弁護士が指摘するように、法科大学院の入学前から法律を学んでいる既修者のほうが、未修者よりも合格率が高くなるのは自然なことだ。実際、受験者全体でみると、既修者の合格率は38.4%で、未修者の16.6%よりも20ポイント以上高くなっている。
そんな中、千葉、愛知、一橋の3校は、未修者の合格率が4割を超えており、既修者全体の合格率よりも優れた結果となっている。これは特筆すべきことだろう。特にこれから新たに法律を学んで司法試験を目指そうという人にとっては、この3校は「検討すべき存在」と言えそうだ。
●法学「既修者」の法科大学院別の合格率ベスト10
1位 東京 71.9%
2位 慶応 71.3%
3位 京都 62.1%
4位 一橋 60.5%
5位 青山学院 60.0%
6位 早稲田 57.8%
7位 愛知 50.0%
7位 岡山 50.0%
7位 新潟 50.0%
7位 広島修道 50.0%
7位 近畿 50.0%
●法学「未修者」の法科大学院別の合格率ベスト10
1位 千葉 47.4%
2位 愛知 41.7%
3位 一橋 40.5%
4位 慶応 32.1%
5位 首都大 31.3%
6位 京都 31.2%
7位 東京 29.3%
8位 早稲田 28.1%
9位 名古屋 27.3%
10位 北海道 27.0%
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