2013年08月31日 18:51 弁護士ドットコム
台風の季節がやってきた。熱帯の洋上で発生した台風が、反時計回りに吹き込む風を伴いながら、日本列島に沿うように北上する。毎年、各地に甚大な被害をもたらすことは、報道されているとおりだ。
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一般的に台風は、進行方向に向かって右側の地域での被害が大きいとされる。台風自体の回転に移動速度が加わるため、風が強くなるという。自分の住んでいる地域がそのエリアにあたる場合は、特に注意を払う必要がある。
だが、もしも、暴風で他人の家の瓦が飛んできて、家や車や身体が傷つけられてしまったとしたら・・・。そんなとき、瓦がのっていた家の持ち主に対して、賠償金を求めることはできるだろうか。台風の多い沖縄で活動する田村ゆかり弁護士に聞いた。
●家の持ち主だけでなく、賃借人にも賠償金を求めることが可能
田村弁護士によると、今回のケースで損害賠償を求めるには、民法717条1項の工作物責任の規定が問題になるという。そこでは、次のように定めている。
「土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う」
法律の条文なので、難しい言葉が並んでいるが、どのような意味だろうか。
「まず、『工作物』には家も含まれます。そして、『瑕疵』(かし)とは、工作物がその種類に応じて通常備えているべき安全性・設備を欠いている状態のことです。
つまり、もし家に『瑕疵』があり、そのために瓦が飛ばされた結果、家や車が壊れたり、けがをしたりしたら、その家の『占有者』が損害賠償責任を負うことになります」
「占有者」というのは、その家に住むなどして、事実上、支配している人のことだ。家の状態をコントロールできる立場にあるので、それに応じた責任があるということだろう。
「もし、その家が持家ということならば、所有者と『占有者』は基本的には同じ人ですから、家の持ち主が責任を負います。アパートなどを借りている賃借人の場合は、賃借人も『占有者』として責任を負います」
また、強風や豪雨などの自然力が荷担していた場合であっても、「工作物の設置又は保存に瑕疵がある以上は、自然力の荷担という事情だけで、責任を免れることはできないと考えられています」と、田村弁護士は指摘する。
●「占有者」は賠償責任を免れられても、「所有者」は免れられない
では、家の持ち主や賃借人などは、責任を免れることはできないのだろうか。
「民法717条1項は、ただし書きで『占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない』と定めています。
したがって、『占有者』が、損害発生防止のために必要な注意をしていた場合には賠償責任を免れることができますが、『所有者』は、たとえ損害発生防止のために必要な注意をしていても、損害賠償責任を免れられません」
すなわち、賃借人などの「占有者」は責任を免れられる可能性があるが、「所有者」である持ち主は、免れることができないことになる。田村弁護士は、本件で賠償金を求めるポイントについて、次のように整理する。
「家の『所有者』と『占有者』が同じであれば、『所有者』に対して損害賠償請求することができます。それぞれが異なる場合は、被害者はまず『占有者』に対して請求することになりますが、『占有者』が損害発生防止のために必要な注意をしていた場合には、『所有者』に対して請求することができるということになります」
いずれにしても、台風で飛んできた瓦で被害にあった人は、その家の所有者か占有者に損害賠償を請求できるということだ。逆にいえば、家に住んでいる人は賠償責任を負う可能性があるわけなので、家のメンテナンスに注意を払うようにしたほうがいいだろう。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
田村 ゆかり(たむら・ゆかり)弁護士
沖縄県那覇市において、でいご法律事務所を運営。
平成25年度沖縄弁護士会理事。同年度沖縄県包括外部監査補助者。経営革新等支援機関
事務所名:でいご法律事務所
事務所URL:http://www.deigo-law.com/