2013年08月30日 16:51 弁護士ドットコム
東京の住宅から盗まれたルノワールの油絵が、英国の競売で落札されていたことが報道され、話題になっている。問題の絵画は、ルノワールが1903年に描いた「マダム・ヴァルタ」。警視庁によって窃盗事件として捜査されていたが、海外の盗難美術品データベースに登録されていなかったため、競売会社は盗品と知らずに競売を行ったとみられている。
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これは海外のケースで、元の所有者は取り戻すのがなかなか難しそうだが、盗まれた美術品が日本で競売にかけられたとしたら、どうなのか。盗品が落札された場合、元の所有者は落札した人に「美術品を返してくれ」と求めることができるのだろうか。田沢剛弁護士に聞いた。
●「取引の安全」を守るための「即時取得」という制度
「わが国の民法192条は、『取引行為によって、平穏に、かつ、公然と動産の占有を始めた者は、善意であり、かつ、過失がないときは、即時にその動産について行使する権利を取得する』と定めています。これを『即時取得』(善意取得)といいます」
このように田沢弁護士は「即時取得」の規定を紹介する。ここでの「善意」は、一般社会で使われる意味と違い、「ある特定の事実を知らないこと」という意味だ。今回のケースでいえば、絵画が盗品であることを知らないことを「善意」というのだ。法律用語独特の意味である。
つまり、たとえ絵画が盗品だったとしても、そのことを知らず、かつ、知らなかったことについて過失もない場合には、その絵画の所有権を取得できるということだ。
「なぜ、このような即時取得の制度が設けられたかというと、動産は不動産と違って取引が頻繁にあり、通常はそれを占有(所持)している者が、真の所有権ないし処分権利者であることが一般的であるため、これを信じて取引をした者を保護することが必要だと考えられているためです」
●美術品が盗まれて、競売で落札されても、2年以内なら取り戻せる
この即時取得の制度が、典型的なシーンとして想定しているのは、「自分の物を他人に預けていたところ、勝手に売却されてしまった」というような状況だ。
「つまり、自らの意思で物の占有を他人に委ねていた場合には、処分されてしまったときのリスクを考えなければならない、ということです。被害を受けた元の所有者よりも、善意で(知らないで)取得した第三者のほうが保護されるべきだ、という価値判断から設けられた制度といえます」
このような点から、盗難の被害にあった場合など、自らの意思で物の占有(所持)を他人に委ねたわけではない場合には、「即時取得の例外」が定められているという。
「すなわち、『占有物が盗品又は遺失物であるとき』は、盗まれた時ないしは遺失した時から2年間に限って、占有者に対して返還請求ができるものとしています(民法193条)。
ただし、現在その物を占有している者が、『競売や公の市場』、あるいは『その物と同種の物を販売する商人』から善意で買い受けた場合には、取引の安全を保護する要請のほうが大きくなるため、同人が支払った代価を弁償しなければ、返還請求することができないものとされています(民法194条)」
すなわち、美術品が盗まれて、競売で落札されたとしても、「盗まれた時から2年以内であれば、落札者の支払った金額を弁償することにより、返還を求めることができる」というわけだ。ただ、今回の事件のように盗難から10年以上たってしまった場合には、即時取得の例外規定も効力をもたないということになる。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
田沢 剛(たざわ・たけし)弁護士
1967年、大阪府四条畷市生まれ。94年に裁判官任官(名古屋地方裁判所)。以降、広島地方・家庭裁判所福山支部、横浜地方裁判所勤務を経て、02年に弁護士登録。相模原で開業後、新横浜へ事務所を移転。得意案件は倒産処理、交通事故(被害者側)などの一般民事。趣味は、テニス、バレーボール。
事務所名:新横浜アーバン・クリエイト法律事務所
事務所URL:http://www.uc-law.jp