2013年08月30日 12:21 弁護士ドットコム
大阪府警で誤認逮捕があいついでいる。7月と8月の2カ月間に、窃盗、道交法違反、痴漢事件と異なる分野で、4件も発覚しており、捜査手法に問題が投げかけられている。
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8月中旬に判明したのは、浪速署管内で起きた痴漢事件にまつわる誤認逮捕だ。8月12日未明、路上を歩いていた女性が「自転車に乗っていた男性に尻を触られた」と通報し、現場近くにいた50代の男性が現行犯逮捕された。だが翌日、防犯カメラの映像などから別人が犯人だと判明した。男性は当初から否認していたが、女性が「この人で間違いない」と説明したため、逮捕されたという。
また8月上旬には、高槻市の路上で少女がスカートをめくられた痴漢事件で、高槻署の署員が無関係の男性を誤って現行犯逮捕していたことが発覚した。事件は4月に起きたものだ。このときも、痴漢被害を受けた少女とその母親が「犯人で間違いない」と証言したのを鵜呑みにしてしまったという。そのほかにも、大阪府警では、窃盗事件や道交法違反事件で誤認逮捕が起きている。
このような「誤認逮捕」はなぜ起きるのだろうか。捜査方法に問題はないのだろうか。元検事で、刑事事件にくわしい山田直子弁護士に聞いた。
●逮捕には、3つの種類の逮捕がある
「誤認逮捕とは、犯罪事実はあったと思われるものの、犯人ではない第三者を誤って逮捕するという意味で、一般的には使用されているようです」
このように「誤認逮捕」の意味を確認したうえで、山田弁護士は「逮捕」の種類について説明する。
「逮捕には、(1)現行犯人逮捕(2)緊急逮捕(3)通常逮捕の3種類があります。逮捕するには、原則として、裁判官の発付した逮捕状によらなければなりません」
この3種類の逮捕は、それぞれどのような内容なのだろうか。
「現行犯人逮捕は、犯行場面が現に進行しているか、犯行の直後で、裁判官の逮捕状の発付を待つまでもない場合に、無令状で例外的に許可される逮捕の方法です。
これに類似する逮捕方法が、緊急逮捕です。これは、現行犯人逮捕よりも緩やかな要件で、逮捕後の逮捕状発付を条件として許可されるものです。
これに対して、通常逮捕とは、原則どおり、あらかじめ裁判官から逮捕状の発付を受けて、その逮捕状の執行として行われるものです」
●現行犯人逮捕で、誤認逮捕が起きてしまう理由
このように逮捕には3種類の方法があるわけだが、山田弁護士は「誤認逮捕といっても、現行犯人逮捕・緊急逮捕の場合と、通常逮捕の場合とでは、生じる原因が異なります」と指摘する。
「現行犯人逮捕や緊急逮捕の場合は、犯行を現認した人が警察官ではなく、被害者等の一般私人のケースがほとんどです。その現認者の『この人が犯人に間違いない』という供述が、すべて信用できるとは限りません。
特に、痴漢行為の場合は、被害者が背後から被害に遭い、犯人が犯行に及んでいる姿を直視していない場合が多いため、『この人が犯人に間違いない』という被害者の供述を全面的に信用するのは、慎重になる必要があります。
しかし実際には、警察官が被害者の訴えを最初から信用しないというのも問題があるといえます。まず警察官が被害者側のスタンスに立つ結果、過度に被害者の供述を信用してしまうということも、この類のケースでの誤認逮捕の要因ではないでしょうか」
●証拠の評価の誤りが、誤認逮捕につながる
では、通常逮捕の場合は、どうなのだろうか。
「通常逮捕の場合は、集めた証拠を精査したうえで、満を持して、逮捕状の発付を請求するわけです。ここでは、収集した証拠の評価の誤りや証拠の収集不足が、誤認逮捕の要因といえます。
逮捕に踏み切るには十分な捜査を尽くし、正確に証拠を評価する必要があります。ところが、その過程に不徹底があれば、誤認逮捕という、本来、あってはならない事態が起こってしまうこととなるのです」
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
山田 直子(やまだ・なおこ)弁護士
奈良弁護士会所属(元検事)
事務所名:弁護士法人松柏法律事務所生駒事務所
事務所URL:http://keiji-shohaku-law.jp/