2013年08月29日 13:00 弁護士ドットコム
パキスタンのテレビのクイズ番組が、生後間もない「人間の赤ちゃん」を子どものいないカップルに景品として贈り、物議をかもしている。
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CNNなどによると、カップルに贈られたのは、路上などに捨てられ、NGO団体が保護した赤ちゃん。視聴者からは批判の声も上がっているが、番組は大ヒットしたという。NGOは「カップルには4~5回会って話し合う」「子どもたちが良い家庭で暮らせるようにすることがなぜだめなのか」と主張している。その背景には、公的な養子縁組制度がパキスタンにないこともあるようだ。
国内事情があまりに違いすぎて、日本でこんなことが起きる可能性はほぼないだろう。だが、万が一、日本でテレビ番組の景品として赤ちゃんを贈呈したら、どんな法律に違反する可能性があるのだろうか。中村憲昭弁護士に聞いた。
●人身取引は重大な人権侵害だが・・・
「いわゆる人身取引は重大な人権侵害であり、故意に行われた人身取引は、国際的には犯罪行為です。しかしながら、国内法をみると、無償での人身取引を直接取り締まる刑罰法規は存在しないのが現状です」
中村弁護士からは、このように意外な答えが返ってきた。
「唯一、民間事業者の養子縁組あっせん事業を行うためには届け出が必要であり、無届業者に対しては、都道府県知事が事業停止を命じることができます。命令に従わずに事業を続けた場合には、6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処せられます(児童福祉法)」
無償での人身取引を直接取り締まる刑罰法規が日本にはないというのは、そのような法律が必要ないほど、日本が治安のよい国ということなのだろうか。だが海外に目を転じれば、売春目的や臓器摘出目的での人身取引が問題になっている。
●「人身取引議定書」が2000年に国連で採択された
「人は商品ではありません。物と同じように取引することは、それ自体、基本的人権を侵害する行為です。そのため、2000年11月、国連において、いわゆる国際組織犯罪防止条約人身取引議定書が採択されました。同条約にはわが国も署名し、2005年6月に国会の承認を得ています。
同議定書には、人身取引を国内法で刑罰化することも盛り込まれており、我が国においても、対価を支払っての人身売買は、人身売買罪が新設され、犯罪化されました。しかし、無償での養子縁組あっせんは、犯罪とはされていません。適切な養子縁組は、孤児等の児童の福祉にも沿うからです」
このように中村弁護士は、人身取引に関する条約と法律について説明したうえで、赤ちゃんをテレビ番組の景品とすることの是非について、次のように述べている。
「子の福祉を目的とした養子縁組と、番組の景品とでは、スタンスからして大きく異なります。番組側が、何らからの経費の支払を要求すれば、それをもって人身売買罪に問われる可能性もあるでしょう。
また、刑罰はないとしても、日本の市民感覚からすれば、孤児を景品にすることに対しては強い拒否反応があるでしょう。ですから、視聴率を考慮しても、テレビ局が子どもを懸賞にかける現実的可能性は、現時点ではないと思います」
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
中村 憲昭(なかむら・のりあき)弁護士
保険会社の代理人として交通事故案件を手掛ける。裁判員裁判をはじめ刑事事件も多数。そのほか、離婚・相続、労働事件、医療関連訴訟なども積極的に扱う。
事務所名:中村憲昭法律事務所
事務所URL:http://www.nakanorilawoffice.com/