2013年08月29日 11:31 弁護士ドットコム
製薬大手ノバルティスファーマの高血圧治療薬「ディオバン」をめぐる論文で、データの不正操作が見つかった問題は、臨床研究そのものの信頼を揺らがす事態にまで発展している。厚労省は8月、検討委員会を立ち上げ、調査に乗り出した。
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データ操作が見つかった京都府立医大と慈恵医大のうち、慈恵医大が行った調査では、操作をした人物は、この薬を販売する大手製薬会社ノバルティスファーマの元社員(発覚後の5月退社)だと「強く疑われる」とした。だが、確たる証拠は示されていない。真相究明は今後、厚労省の調査に委ねられた格好だ。
さて、こうした「論文のデータねつ造・改ざん」は、しばしば問題になっている。データのねつ造・改ざんを食い止めるためには、どのような法的枠組みがあるのだろうか。冨宅恵弁護士に聞いた。
●詐欺罪などが歯止めになるが、最終的には研究者の規律・自浄作用しかない
「医薬品関連の研究データ操作は、日本だけの問題ではありません。新薬認可基準を満たすように研究結果が改ざんされていたり、助成金等の公的資金を獲得する目的で研究結果が改ざんされていたという事例が、国内だけでなく、海外においても少なからず存在しています」
――なぜそんなことに?
「今回の事例のように、医薬の分野で多くのデータねつ造・改ざん事件が発生する理由は、一つの医薬で数百億円から1000億円を超えるお金が動き、製薬会社から研究者個人や研究機関に対して経済的支援が行われることがあるためです」
――データのねつ造や改ざんを防ぐための法的枠組みは?
「研究結果を偽って助成金等を申請し受領した場合には、『補助金適正化法違反』となります。研究者個人や研究者が属している研究機関は、補助金を返還しなければなりませんし、5年以下の懲役もしくは100万円以下の罰金に処せられることもあります。
また、研究結果を偽った論文を交付して金銭の交付や何らかの経済的利益を自ら得たり、第三者に得させた場合には詐欺罪が成立します。この場合には、10年以下の懲役に処せられることになります」
――それだけでは歯止めにならない?
「そもそもの前提として、研究の不正を発見するのは、簡単ではありません。研究論文は、発表前に第三者の専門家によって『査読』が行われ、研究結果の妥当性がチェックされています。
しかし、査読には『各研究者が倫理的行動をとること』という抽象的な基準しかありません。査読で不正を発見しようとしても、科学的検証には時間的、費用的な限界があるため、データが改ざんされた論文を発表前に排除することは、困難な状況にあります」
――研究から利害関係者を排除することも一手なのでは?
「そうですね。研究者の経歴や属性、製薬会社等との関係を確認して、研究結果に懐疑的な目を向けることの重要性が指摘されています。ただ、それだけでは限界もあります。
そもそも、我々一般人が高度な専門分野の最先端の研究をチェックすることは、不可能といってよいと思います」
――となると、専門家のモラルや相互監視に期待するしかない部分もある?
「そういうことです。文部科学省のガイドラインにおいても、不正行為への対処は、まずは研究者自らの規律、並びに研究者コミュニティ、大学・研究機関の自律に基づく自浄作用としてなされるべきであるとするとされています。今回のようなデータ改ざんの予防は、最終的には、彼ら自身の自助努力に委ねざるを得ないと思います」
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
冨宅 恵(ふけ・めぐむ)弁護士
多くの知的財産侵害事件に携わり、様々な場所で知的財産に対する理解を広める活動にも従事。さらに、収益物件管理、遺産相続支援、交通事故、医療過誤等についても携わる。
事務所名:イデア綜合法律事務所
事務所URL:http://www.idea-law.jp/