2013年08月28日 11:21 弁護士ドットコム
アフリカライオンの檻にいたのは「犬」だった!? 中国河南省の動物園が、ライオンの代わりに「犬」を、ヒョウの代わりに「キツネ」を展示し、来園者の怒りを買ったと、CNNなど各国メディアが報じている。
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動物園の責任者はCNNの取材に対し、ライオンとヒョウを檻から別の場所に移したのは「繁殖のため」と説明。また、ライオンの檻に大型犬のチベタン・マスティフを入れたのは「安全上の懸念からだ」と釈明しているらしい。
しかし、繁殖で檻にいないなら、正直にそう書けば良いだけだ。犬を入れる必要はない。偽装も言い訳もあまりにもお粗末な話だが、万が一日本で、動物園がこのようなことをしたら、客は「入園料を返せ」と言えるのだろうか。また動物園が檻に他の動物を入れて知らんぷりを決め込むという行為自体、日本なら何らかの犯罪にあたるのだろうか。西田広一弁護士に聞いた。
●動物園が「債務不履行」となる場合とは?
「動物園と入園客との間では、入園料を支払って動物を観覧するという『動物観覧契約』とでもいうものが成立していると考えられます。その動物観覧契約において、動物園側は、通常観覧できる動物を園内で観覧させる義務を負います」
このように西田弁護士は、動物園と入園客の間の「契約」について説明する。
「動物園で通常観覧できる動物の中には、ライオンやヒョウなども当然入っており、多くの入園客が見たい動物といえるでしょう。ですから、何らかの事情によりこれらの動物がいない場合には、事前に告知しておくべきであり、その告知をしていなければ、債務不履行となると考えられます」
では、ライオンやヒョウがいなかった場合、客は入園料を返せといえるのだろうか。
「他の多くの動物を観覧できている以上、通常は難しいでしょうね。ただ、大半の動物を観覧できず、そんな動物園であれば入園しなかったといえるような場合には、入園料の返還請求ができると考えられます。そこまで至らない場合には、精神的苦痛に基づく慰謝料支払義務を負うか、という程度の問題となるでしょう」
●動物園の「偽装工作」があれば慰謝料が認められる可能性もある
そうすると、入園客は「ライオンが見られなくてショックだった」といって、慰謝料を請求できるのか。これもまた、なかなか微妙な問題のようだ。
「ライオンやヒョウを見れなかったという程度では、慰謝料支払義務を肯定することは難しいでしょう。ただ、動物園が、ライオンやヒョウの代わりに別の動物を入れておく『偽装行為』を行なった場合は悪質といえ、見た人の怒りの感情も強くなるでしょう。そのような場合には、動物園の慰謝料支払義務が認められる可能性もあると思われます」
つまり、もし中国の動物園のような『偽装』が行われたとしたら、入園客は動物園に慰謝料を請求できそうというわけだ。ここまでは、民事責任の話だが、刑事責任が生じる余地もあるという。
「今回のような偽装行為が行われ、その動物がいなければ客は入園しなかっただろうという事情があれば、入園料の詐欺(刑法246条)となる可能性があるといえます」
おそらく日本では、ライオンの代わりに犬を檻に入れて、客をごまかそうという動物園はないだろう。そんなことをすれば、たちどころにバレてしまうのは、まず間違いないのだから。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
西田 広一(にしだ・ひろいち)弁護士
1956年、石川県小松市生まれ。95年に弁護士登録(大阪弁護士会)。大阪を拠点に活動。得意案件は消費者問題や多重債務者問題など。大阪弁護士会消費者保護委員会委員。関西学院大学非常勤講師。最近の興味関心は、読書(主にビジネス書)、クラウドサービスなど。
事務所名:弁護士法人西田広一法律事務所
事務所URL:http://law-nishida.jp