2013年08月26日 20:00 弁護士ドットコム
内閣府が2010年におこなった世論調査によると、家庭で犬や猫などのペットを「飼っている」と答えた人が34%に達した。日本人の3人に1人がペットを飼っている計算だ。犬や猫を飼っている家庭では、出産防止のため去勢手術を施している場合も多い。
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ところが運悪く、その手術でペットが死亡してしまうことがある。ネットの相談サイト「発言小町」にも8月初め、「飼っていた犬が、避妊手術をしましたが、直後に亡くなりました・・・避妊、去勢手術で、犬は簡単に死んでしまうものなのでしょうか?」という悩みが打ち明けられていた。この相談主によると、手術の同意書にハンコを押しただけで、獣医師から手術の危険性などについては、特に説明はなかったという。
飼主としては、リスクが高ければ手術をしないという選択もあるのだから、十分な説明が欲しかったはずだ。この相談主も「手術の前に、もっと説明やリスクなどしてもらえないものなのでしょうか?」と疑問の声をあげている。
ペットの手術にあたって、獣医師には、飼主にリスクを説明をする義務があるのだろうか。また、十分なリスク説明がなかった手術でペットが死んだ場合、獣医師の責任を追及できるのだろうか。ペット問題にくわしい渋谷寛弁護士に聞いた。
●獣医師は手術のリスクを説明すべき
「ペットの避妊・去勢手術などは一般的に行われていますが、犬や猫は全身麻酔をするだけでも死亡するリスクがあるといわれています。簡単なはずの手術で死亡してしまうことも稀にあるようです。
ところが、手術・麻酔に伴う死亡リスクの存在は、すべての飼い主に認知されているとまでは言えません。飼い主はそれゆえ余計に、突然の死を驚き、悲しむことになっているのです」
――獣医師の説明責任は?
「ペットの手術の際には、獣医師と飼い主の間には『診療契約』(準委任契約)が結ばれます。この契約に基づき、獣医師には『善管注意義務』が発生します。
善管注意義務(善良なる管理者としての注意義務)は、この場合、専門家である獣医師として、期待される一定水準の医療行為をしなければならないという義務です。また診療契約には報告義務もあり、飼い主から聞かれた場合には、手術リスクの説明をしなければなりません」
――リスクについて、適切な説明がなければどんな不利益が発生する?
「十分なリスク説明がなければ、『飼い主の自己決定権が侵害された』として不法行為責任(民法709条)が発生することがあります。
これは、飼い主がちゃんとした説明を受けていれば取ることができた、手術をしない、他の治療法を試すなど、他の選択肢を奪われたという意味です」
――獣医師は、たとえ飼い主に聞かれなくても、積極的に説明すべき?
「獣医師会はインフォームド・コンセント(説明と同意)の徹底を目標に掲げています。
これまで検討してきた事柄を総合的して考えれば、たとえ飼い主からの質問がないとしても、リスクを説明する義務はあると言えるのではないでしょうか。
具体的には、手術の際にどの様な弊害があり得るのか、死亡する可能性はあるのか、あるとしたらどれくらいの割合か……などを説明する義務があると考えられます」
――ということは、裁判で『損害賠償をしろ』と言える?
「手術でミスをしたり、十分な説明をしなかった獣医師に対して、損害賠償を請求することは可能です。実際に損害賠償請求を認めた裁判例もあります。
裁判になった場合は、手術に関する同意があったかどうかよりも、実際にどれだけくわしい説明がなされたかが争点になるでしょう」
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
渋谷 寛(しぶや・ひろし)弁護士
1997年に渋谷総合法律事務所開設。ペットに関する訴訟事件について多く取り扱う。ペット法学会事務局次長も務める。
事務所名:渋谷総合法律事務所
事務所URL:http://www.s-lawoffice.jp/contents_01.html