2013年08月23日 13:01 弁護士ドットコム
芸能活動の再開を発表したばかりの元「モーニング娘。」の加護亜依さんが「名前」をめぐる騒動に巻き込まれている。加護さんの前の所属事務所が「加護亜依」の名前を商標登録しており、その名前で活動した場合、責任を追及する構えをみせているのだ。
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特許庁の商標データベースをみると、たしかに、前の所属事務所の名義で「加護亜依」という商標が2009年12月に登録されている。加護さんは結婚・出産などで芸能活動を休止していたが、今年8月15日にブログで、新しい事務所で活動を再開することを発表した。そこへ前事務所から横やりが入ったかたちだ。
芸名をめぐる騒動といえば、1990年代の「加勢大周」事件が思い出されるが、あのときは本名ではない純粋な芸名だった。今回の「加護亜依」は本名でもあるということなのだが、他人に商標登録されてしまうと、自分の本名でも芸能活動で使用できないのだろうか。商標にくわしい岩原義則弁護士に聞いた。
●「著名な芸名」を、本人が「普通に用いられる方法」で使うのは問題ない
「たとえ、他人に商標登録されている名前でも、それが自分の本名で、自分を表示するものとして使用するのであれば、商標権侵害とはなりません(商標法26条1項1号)。また、著名な芸名を、本人が普通に用いられる方法で使っても、商標権侵害とはなりません(同号)」
このように岩原弁護士は、商標法にしたがって説明する。では、今回の「加護亜依」の場合は、どうなのだろうか。
「報道をみると、本名という点だけを問題にしているようですが、仮に本名でなかったとしても、『加護亜衣』という名称は、芸名としても『著名な芸名』と考えてよいでしょう。したがって、本人が通常使う範囲であれば、商標権侵害とはならないと思われます。具体的には、自分のブログに使用するという程度であれば、問題になりにくいと考えられます」
つまり、商標法が定める「普通に用いられる方法」で名前を使うかぎりは、問題ないだろうということだ。ただ、加護さんの場合は、芸能活動で「加護亜依」という名前が使えなければ意味がない。これは「普通に用いられる方法」といえるのだろうか。
「芸名の場合は、境界は曖昧になりそうです。単に自分の名前を紹介するために使うのであればOK、ロゴのように使う場合はNGと、論理的にはいえるでしょうか」
このように岩原弁護士は答える。そうなると、「加護亜依」という名前を大きく表示させたCDや写真集を販売することは難しいようにも思えてくる。特に、加護さん自身ではなく、新しい所属事務所が芸能活動のために使うとなると、ハードルが大きそうだ。
●商標登録の出願前から名前が広く知られていれば、使える可能性もある
だが、岩原弁護士は「商標表32条の『先使用』にあたれば、本人はもちろん、その業務の承継者も継続して、『加護亜衣』を芸能活動の商標として使えることになります」と指摘する。
この「先使用」というのは、その名前が商標登録に出願される前から、ある商品やサービスを表示するものとして使用されていて、消費者の間に広く認識されていた場合は、もともと名前を使っていた者は、そのまま継続して使用できるというものだ。
「先使用は認められる要件が厳しいのですが、今回の加護さんの場合は、認められる可能性が高いといえそうです。あえていえば、『継続して』使用していたかが問題にされるでしょうか」
さらに、岩原弁護士は「加護亜依」という名前が商標登録されたのが、2009年12月で、まだ5年を経過していない点にも注目する。「登録から5年を経過していなければ、無効審判で商標をつぶすのが一番手っ取り早いと思います」というのだ。つまり、加護さんとしては、「この商標登録は無効だ」と争う余地があるというわけだ。
このように加護さんの場合は、「加護亜依」という名前が商標登録されているからといって、すぐに「使えない」と決まったわけではないようだ。さまざまな条件をみたす必要があるので、芸能活動で「使える」と断言できるわけでもないが、その可能性は十分にあるといえそうだ。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
岩原 義則(いわはら・よしのり)弁護士
弁護士・弁理士。大阪弁護士会・知的財産委員会副委員長
事務所名:溝上法律特許事務所
事務所URL:http://www.mizogami.gr.jp/