2013年08月21日 17:21 弁護士ドットコム
トヨタと三菱自動車は自社車両の「自動ブレーキ」に欠陥が見つかったとして、6月に相次いでリコールを届け出た。
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自動ブレーキは、ミリ波レーダーなどで障害物を感知して作動し、自動的に車の速度を落とす装置だ。「クラウン」など、約2万台をリコールしたトヨタでは、障害物を検知するためのソフトウェアが不適切だったため、乱反射したミリ波レーダーの情報を、まれに前方障害物と誤認識すると発表。「衝突の可能性がないのに自動ブレーキが作動して、予期せぬ急制動がかかるおそれがある」とした。実際、ブレーキの誤動作で、物損事故が1件起きたという。
自動ブレーキはあくまで、運転支援システムという位置づけだ。しかし前述の事故のように、自動ブレーキの不具合のために意図せぬ形でブレーキがかかり、事故につながった場合、事故の責任を自動車メーカーに問うことはできるのだろうか。また、そのような原因で急停止した車に追突した側の責任は、軽減されるのだろうか。射場守夫弁護士に聞いた。
●欠陥車に対しては「製造物責任法」が適用される
まず、自動車メーカーに事故の責任を問えるかだが、射場弁護士は「メーカー対して製造物責任法による責任を追及することが考えられます」と述べる。
「購入した製品に問題があった場合、通常は、販売者の責任となります。しかし、製造物責任法は、製品に欠陥があり、この欠陥によって生命・身体・財産に損害が生じた場合、製造者に直接、損害賠償請求できることを定めています」
どんな「欠陥」があれば、いいのだろうか?
「ここでの『欠陥』とは、その製品が通常有すべき安全性を欠いていることを言います。今回の自動ブレーキの誤作動は、走行中必要性がないのに制動を始め、追突の危険性を発生させるものですから、この自動車は『欠陥』があると言えるでしょう」
●追突してしまった後続車の責任はどうなる?
では、そのような欠陥のある自動車が急停止したために「追突」してしまった車の運転者の責任は、どうなるのだろう。追突はやむをなかったとして、責任が軽減されるのか。射場弁護士によると、急停止した自動車の運転手(被害者)に過失があるといえるかどうかが問題になるという。
「一般的には、このようなブレーキの誤作動を予見するのは困難と考えられますから、被害者の過失は認められず、加害者の責任は軽減されないことになるでしょう。ただし、その場合、加害者は欠陥のある自動車を製造したメーカーに求償することが考えられます。
ただし、ブレーキに欠陥のある自動車は整備不良車といえますから、事故以前に運転した際に誤作動を起こしたことがあるなど誤作動について予見できた場合には、そのような自動車を運転したことに対する『過失』が認められる余地があると思います」
自動ブレーキは、人間を守るために導入された新技術なのに、そのために事故が起きる可能性があるというのは皮肉なものだ。ただ、人間は必ずミスをする生き物なので、機械によって事故を防ごうとする発想そのものは間違っていないといえる。これを機に、自動車の安全性がより一層高まっていくことを期待したい。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
射場 守夫(いば・もりお)弁護士
奈良弁護士会所属。消費者保護委員会、高齢者・障害者支援センター運営委員会、法教育に関する特別委員会所属。消費者契約や債務整理、高齢者(成年後見)に関する諸問題、交通事故を多く取り扱ってきました。
事務所名:一法律事務所
事務所URL:http://www.hajime-law.jp/