2013年08月21日 12:20 弁護士ドットコム
米ネット企業AOLのCEOティム・アームストロング氏が、1000人が参加する電話会議で突然、ある従業員に「君はクビだ。出ていけ!」と告げたとして、話題を呼んでいる。
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CNNによると、この発言は8月9日の電話会議でのこと。アームストロング氏は、傘下のニュースサイトの事業計画を説明中、そのサイトのクリエイティブディレクターであるアベル・レンズ氏が自分にカメラを向けているのを見とがめて、「アベル、そのカメラを今すぐ置け!アベル、君はクビだ。出て行け!」と通告した。発言は会議に参加していた全員に聞こえたという。
アームストロング氏はその後、公の場での解雇通告を「誤り」だったと認め、レンズ氏に対しては謝罪をすると述べた。しかし、解雇することに変更はないという。
この「事件」は全米で話題になり、「クビだ」という音声も含めて広く報道されている。こんな形で解雇をされたら、単にショックなだけでなく、次の就職にまで影響してしまうかもしれない。もし日本で同様のことが起きたら、何らかの法的救済はあり得るのだろうか。労働問題にくわしい波多野進弁護士に聞いた。
●もし日本だったら解雇は無効になる
「もし起きたのが日本だったら、法的救済として考えられるのは、(1)解雇無効であるから、労働者としての地位があることの確認と解雇後の賃金を請求することと、(2)『解雇通告が不適切だ』として、損害賠償を請求することの2つでしょう」
――それぞれどうなる?
「(1)については、解雇そのものが無効になる可能性が高いと思います。
日本の場合、解雇は『客観的に合理的、かつ社会通念上相当な理由』がない限り無効になるからです。これは『解雇権濫用の法理』といって、最高裁の判例で認められ、労働契約法16条に明文化されています」
――もし、カメラ撮影が社内規則に違反していたとしたら?
「確かに、電話会議にカメラを持ち込み、撮影することを禁止する社内規則があって、従来から有効だったのであれば、規則違反による処分は免れないかもしれません」
――そういった場合なら、解雇されてもやむを得ない?
「いえ、規則違反が解雇を正当化できるとは限りません。解雇が正当化されるかどうかは、(A)カメラ撮影の中止を求めてそれに従ったかどうか、(B)カメラ撮影によってどのような支障があったのか、(C)即時解雇するほどの事情があったのか、(D)けん責、戒告、減給などの懲戒で足るのではないか、など様々な事情を総合的に判断したうえで決まることになります」
――今回のような場合だと?
「この解雇は無効になる可能性が高いと思います。
今回CEOは、労働者の言い分も聞かず、その場でいきなり解雇通告をしたと評価できます。しかし、『カメラ撮影によって、即時解雇を正当化できるほどの支障が生じた』と言えるかは疑問です」
――処分の内容が厳しすぎる?
「そうですね。もし仮に何らかの支障が出ていたとしても、いきなり解雇するのではなく、まずはけん責、戒告や減給といった懲戒処分を行うべきだと考えられます」
――解雇通告の方法も「解雇無効」の判断に影響する?
「1000人規模の電話会議の最中、参加者全員に経緯が分かる形で解雇を通告したことは、明らかに不適切です。裁判官の判断に影響はあるでしょうね」
●このような形の解雇通告は労働者の人格を侵害する
――(2)損害賠償については?
「解雇が無効だった場合はもちろん、仮に『解雇が有効』だったとしても、このような形で解雇を言い渡すことは労働者の人格を侵害します。
解雇された事実やその理由は一般的に他の人に知られたくないことであり、1000人の電話会議の最中に述べることではないことは明らかです。
したがって、解雇の有効・無効に関係なく、損害賠償の対象となり得ます。解雇された労働者は、会社に慰謝料などの請求を行うことができるでしょう」
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
波多野 進(はたの・すすむ)弁護士
弁護士登録以来10年以上、過労死・過労自殺(自死)案件(労災・労災民事賠償)や解雇や残業代にまつわる事件に数多く取り組んできている。
事務所名:同心法律事務所
事務所URL:http://www.karoshi-rosai.com