2013年08月14日 11:11 弁護士ドットコム
インターネットの地図「グーグルマップ」を入口として、世界中のさまざまな場所の「臨場感あるパノラマ写真」を見ることができる「ストリートビュー」。最近は長崎県の軍艦島や富士山など、簡単に行けない観光地にも対応し、その人気はますます高まっている。
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だが、そのリアリティーゆえに懸念されているのが、プライバシーの問題だ。登下校する高校生や仕事中のサラリーマンなど、その場に偶然いた人の姿もストリートビューに映っているからだ。顔にはぼかしが入っているものの、知人であれば服装や雰囲気から誰なのかわかってしまう可能性がある。
たとえば、浮気相手の女性と街を歩いているときの写真がストリートビューに掲載され、服装などから特定されてしまうこともあるのではないか。このような光景をストリートビューに「激写」されたことがきっかけで、妻から慰謝料を請求された場合、プライバシー侵害を理由にグーグル社を訴えることはできるのだろうか。監視カメラとプライバシーの問題などに取り組む小林正啓弁護士に聞いた。
●「個人が特定されればプライバシー侵害になりうる」とする説が有力
「そもそも妻以外の女性と二人で街を歩いていたというだけでは、妻から裁判を起こされる心配はありません。ただし『ホテルから出てきたところを撮影されていた』などという場合であれば、この写真を証拠に慰謝料を請求される可能性がありますね」
——ぼかしなど、プライバシーへの配慮はあるようだが……?
「グーグルストリートビューでは、人間の顔や自動車のナンバープレートに、自動的にぼかしをかけていると説明していますが、『ぼかし忘れ』も見られますし、着衣など顔以外の画像から本人が特定されてしまう場合もありえます。
一般人が見たときに『その人だ』と特定できる画像については、グーグルに対して削除を要求できるとする有力な学説もあります。しかし、まだそういった裁判は行われておらず、裁判で削除などを強制できるかどうかはわかりません」
——言い換えれば、「その人だ」と特定可能な画像を、グーグル・ストリートビューに載せること自体がプライバシー侵害で違法、という学説があるということ?
「そうですね。その学説に立てば、ストリートビューの画像でプライバシー侵害を受けた人は、グーグルに対して、損害賠償請求を行うことができることになります。
つまりこの立場をとれば、ストリートビューの画像が不倫の証拠とされて、妻に対して慰謝料を支払った夫や愛人は、グーグルに対して損害賠償を請求できるでしょう」
——ストリートビューとプライバシーに関する判例は、既にある?
「日本では2010年に、福岡市の女性が、アパートのベランダに干していた下着を撮影されたとして、グーグルの日本法人に対して、慰謝料の支払いを求める訴訟を起こしました。
福岡地方裁判所は、(1)このベランダに下着を干せば、一般通行人からも見られる、(2)画像は目視に比べて高精密ではない、(3)洗濯物の画像から個人を特定することはできない……などとして、女性の訴えを全面的に退けました(2011年3月16日判決)。その後、福岡高裁も女性の控訴を棄却しました」
——その判決から導き出せるポイントは?
「この裁判は、干してあった洗濯物が問題となったものなので、にわかには一般化できない事例です。
しかし、少なくとも裁判所は、『撮影された本人だけが自分だと分かる』ような画像については、特定性なし、つまり、プライバシーの侵害はないと判断すると思われます」
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
小林 正啓(こばやし・まさひろ)弁護士
1992年弁護士登録。一般民事事件の傍ら、ヒューマノイドロボットの安全性の問題と、ネットワークロボットや防犯カメラ・監視カメラとプライバシー権との調整問題に取り組む。
事務所名:花水木法律事務所
事務所URL:http://www.hanamizukilaw.jp/