2013年08月13日 20:10 弁護士ドットコム
過去80年のあいだに800人近くの遭難死者を数え、「魔の山」の異名をもつ谷川岳。群馬県と新潟県の県境にそびえ立つこの峻峰は、危険だからこそ山男たちを魅了してきたという側面がある。だが、そんなロマンとは別に、守るべきルールは守らないと検挙されてしまうようだ。
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今年3月に谷川岳に登った3人の男性が、登山計画書を提出していなかったとして、群馬県の谷川岳遭難防止条例違反で7月23日に書類送検されたのだ。報道によると、3人は危険地区に指定されている岩場地帯に、登山計画書を提出せずに登ったとされる。途中で、そのうちの一人が雪崩に巻き込まれて負傷し、救助された際に無届けが発覚したという。
今回は谷川岳で問題が発覚したが、他の山でも、登山について法律や条例で規制がかけられているのだろうか。また、特別な規制のない山だとしても、登山の際に守るべき最低限のルールにはどのようなものがあるのか。谷川岳の北側に位置する新潟県で活動する齋藤裕弁護士に聞いた。
●山でルールを守るのは、条例がなくても「登山者として当然」
「登山そのものを規制する法律はありませんが、自治体によっては登山を規制する条例があります。
代表的なのは、群馬県谷川岳遭難防止条例や富山県登山届出条例で、いずれも登山届等の提出義務を定め、違反についての罰則も規定しています」
――今回は、群馬県の条例違反による書類送検だったということだが、条例では、ほかにどんなことが決められているのだろうか?
「たとえば、群馬県谷川岳遭難防止条例では、(1)危険地区について十分な知識を持つように努めること、(2)周到な準備・綿密な計画を立てること、(3)危険地区に相応する技術・体力等があるかどうか十分見極めをつけること……などを義務付けています」
――そういった条例は、ほとんどの山・地域にあるのだろうか?
「いえ、条例がある自治体は少数派です。多くの自治体は登山についての義務付けをしていません。しかし、登山届を提出すること、登山する山について十分な知識を持つことなどは、登山者として『当然』に要求されることです」
――そういった、法律には書かれていないが『当然とされる義務』が、裁判の争点となるケースはあるのだろうか?
「ありますね。たとえば、グループ登山については、リーダーは参加者の安全を確保するため適切な登山計画を立てる等の法的義務を負うことになります。
学校の課外活動等における教師や、団体登山を企画した旅行会社には、特に強い注意義務が課せられることになります。それらの義務を怠ったということで損害賠償を命じたり、刑事責任を認めた裁判例も多くあります」
最近、とみに身近になった登山だが、一歩間違えば命に関わるという点は、今も昔もまったく変わっていない。登山計画を立てる際には、山に関わる情報を、条例の有無も含めてしっかりと収集し、ルールに沿った形で慎重なプランを練り上げるべきだろう。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
齋藤 裕(さいとう・ゆたか)弁護士
刑事、民事、家事を幅広く取り扱う。サラ金・クレジット、個人情報保護・情報公開に強く、武富士役員損害賠償訴訟、トンネルじん肺根絶訴訟、ほくほく線訴訟などを担当。共著に『個人情報トラブルハンドブック』(新日本法規)など。
事務所名:新潟合同法律事務所
事務所URL:http://www.niigatagoudou-lo.jp/