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「まとめサイト」を舞台にした「ネット上の私刑」 情報を編集した人の責任は?

2013年08月12日 12:01  弁護士ドットコム

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飲食店やコンビニ店内で撮影されたと思われるアルバイトの「いたずら」写真が連日のようにネットで問題となり、運営会社が謝罪に追い込まれる事態があいついでいる。もともとは軽い気持ちで撮影され、ツイッターやフェイスブックに投稿された写真が、ネット上で瞬く間に拡散し「炎上」するようになった。


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情報拡散の一役を担っているのが、「まとめサイト」の存在だ。まとめサイトとは、ネットに散在する情報を一定の視点で「まとめ」て読みやすくするウェブサイトのことだ。そこでは、騒ぎの元になった写真のほかに、それを行ったとされる人物の氏名、学校、交友関係、プライベート写真などの「個人情報」がまとめられ、ネットユーザーの目にさらされている。



さらされているのは、未成年の場合も少なくない。もともとは本人が望んでソーシャルメディアに公開した情報だとしても、それが問題行為と結び付けられて紹介されることまで、本人が希望しているとは思えない。このような炎上騒ぎは、誤った行為をした人物を寄ってたかって叩く「ネット上の私刑」と見ることもできるだろう。



こういった「まとめサイト」で、問題行動を起こした人物の個人情報をまとめて、多くの人に公開する行為は法的に問題がないのだろうか。名誉毀損やプライバシー侵害にあたるとして、損害賠償責任が生じる可能性はないだろうか。ネット上の誹謗中傷にくわしい清水陽平弁護士に聞いた。



●少なくとも「プライバシー侵害」はあるだろう



「まず前提として、このような『まとめサイト』を作ること自体は、一般的には違法ということは難しいと思います。



インターネット上の情報は、基本的には誰でもアクセスすることができる状態で公開されているわけですから、それを見やすくまとめること自体は、一つの表現行為として保護されると言えます」



――どんな「まとめかた」をしてもいい?



「しかし、表現行為が保護されるからといって、他人の権利を侵害してよいということにはなりません。具体的には、名誉毀損やプライバシー侵害が問題となるでしょう」



――「名誉毀損が問題になる」というのは、どういうこと?



「名誉毀損は『人の品性、徳行、名声、信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価である名誉を違法に侵害』することと、判例上解釈されています。



Twitterなどにアップされる『いたずら写真』は、社会的に見て非難を受ける可能性があるものであることが多い。そのようなものは本来、不名誉なものといえます。その意味では、『まとめサイト』を作ることは名誉毀損に該当する可能性があります」



――そういうケースでは、まとめサイトを作るだけで名誉毀損になる?



「いいえ、そう単純ではありません。実際に名誉毀損が成立するかといえば、少々難しいだろうと考えます。なぜなら、名誉毀損が成立するためには『違法性阻却事由が存在しない』などの条件をクリアする必要があるからです。



簡単にいうと、記述に(1)公共性、(2)公益目的、(3)真実性があれば、違法性がないとされて、名誉毀損は成立しないのです。



この点、今回のようなケースでは、写真という動かぬ証拠を自らアップロードしているのですから、少なくとも(3)真実性はあるといえます。あとは、(1)公共性と(2)公益目的が認められれば、名誉毀損は成立しないことになり、ケースバイケースではありますが、残り2要件も満たされる可能性は十分あると思います」



●アカウント削除は「見られたくない」という意思表示



――では、「プライバシーの侵害」についてはどうか?



「プライバシー権は『私生活をみだりに公開されない権利』です。炎上原因を作った本人が、どこの誰で、どのような人物であるのかということを明らかにする行為は、『私生活をみだりに公開されない権利』を侵害していると言うことができます」



――では、そのような「まとめサイト」は違法?



「『まとめサイト』のコンテンツは主に、炎上原因を作った『本人』が過去に投稿・公開した写真などで構成されています。そうであれば、本人が公開した時点で、自らプライバシー権を放棄しているのではないか? という疑問もわいてきます」



――本人公開の写真なら、権利放棄にあたる?



「必ずしもそうとは断定できません。『まとめサイト』に掲載されている情報は、本人が過去にアップロードしたものだけにとどまりません。



本人が特定される過程をみていくと、それらの情報を手がかりに、Facebookやブログといった他のサイトが探し当てられる。さらに、友人と思われる人物のTwitterやブログ、Facebookなども参照される。そして最終的には、本人がどこの誰であるかということが氏名、年齢、住所に至るまで、おおむね正確に特定されている……というのが通常のようです」



――つまりは、どうなる……?



「炎上原因の写真だけで、本人を特定できているわけではないのです。さらに、もともとは本人も、『特定されない』という前提で投稿をしているように見受けられます。こういった経緯も含めて判断をすれば、『私生活をみだりに公開された』と言えるのではないかと思います」



――特定され、晒されると、本人がアカウントを閉鎖することも多いが……。



「そうですね。本人がTwitterやブログ、Facebookなどのアカウントを削除した場合には、『自身の情報を見られたくない』という黙示の意思表示があると評価できます。



そのような情報をさらにインターネット上で拡散する行為は、自己情報コントロール権(プライバシー権)の侵害と言えるのではないかと考えます。



なお、自己情報コントロール権とは、自分自身に関する情報の流通を積極的にコントロールする権利で、プライバシー権の一側面として判例上も承認されてきています」



――「悪いことをした人間を非難することが、なぜ悪いのか」という考えもあるが?



「たしかに、炎上原因となった方が問題行動を取っているという側面は否定できませんし、それについて批判が集まってしまうことも一定程度やむを得ないでしょう。



しかし、だからといって、それが誰なのかということまで暴き、プライバシーを侵害してよいかというと、それは少し違う話なのではないかと考えます」



マスコミ報道においても、プライバシー侵害が問題視されるケースはしばしばで、裁判になるケースもある。「まとめサイト」の個々のページは、誰が作成しているのか判然としない場合も多いが、情報拡散の役割を担っている点は、他メディアとなんら変わりはない。制作に関わるのであれば、少なくともそうした自覚と責任感は持つ必要があるのではないか。


(弁護士ドットコム トピックス)



【取材協力弁護士】
清水 陽平(しみず・ようへい)弁護士
IT法務、特にインターネット上で行われる誹謗中傷の削除、投稿者の特定に注力しており、平成24年には東京弁護士会の弁護士向け研修講座の講師も担当。
事務所名:法律事務所アルシエン
事務所URL:http://www.alcien.jp