2013年08月08日 12:00 弁護士ドットコム
職場の朝礼で『唱和』を拒否したら、懲戒解雇されてしまった――。そんな男性が解雇の無効を訴えた裁判で、男性の主張を認める判決が7月26日、京都地裁で下された。
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報道によると、解雇が無効とされたのは、学校法人平安女学院(京都市)の元職員の男性。2012年9月、男性は朝礼で「理事長の下に固く結束し」という部分の読み上げを拒否して解雇されていた。学校側は「業務に支障が生じた」としていたが、裁判官は「業務に大きな影響を与えたとも言えない」「懲戒解雇は重すぎる」と判断した。
「唱和」は職場の士気高揚などに、少なくない会社で実施されているようだ。たとえばパナソニックでは、創業者松下幸之助の「綱領・信条・7精神」を唱えるというし、ある大手ドラッグストアも、店舗で毎朝「いらっしゃいませ」といった「接客8大用語」を唱和するという。一方、このノリに付いていけないという人もいて、ネットの相談サイトには「(唱和に)ストレスを感じている」といった悩みが寄せられている。
はたして従業員は、自分の信条に合わない職場の「唱和」を拒否できるのだろうか。また、今回は懲戒解雇を無効とする判決が出たわけだが、もっと軽い処分なら甘受するしかないのだろうか。労働事件にくわしい大川一夫弁護士に聞いた。
●『唱和』そのものは違法とはならない
――「解雇」よりも軽い処分なら、甘受するしかない?
「『解雇』は行き過ぎですが、軽い処分ならば甘受しなければならないと思います」
――どういう理由なの?
「労働契約上、労働者は使用者に対して労働を提供する義務があります。その関係で、使用者の指揮命令に服さなければなりません。
もちろん、この指揮命令は、どんなことでも命じることができるというわけではなく、違法な命令はできませんし、労働者の思想・信条に反するような命令もできません。
しかし、会社の理念や方針を理解させ、協調して仕事をしてもらうために、社会通念上相当の範囲内なら、『唱和』そのものは違法とはならないでしょう」
――そういった例は他にもあった?
「公立学校の卒業式などでの国旗掲揚や国歌斉唱の際に、教職員に対して起立や斉唱を求める命令が、『思想・良心の自由』に反しないか争われたケースでしょう。最高裁は、結論として、そのような職務命令を出しても『思想・良心の自由』に反しないとしています。
この判例によれば、主観的に、自分の思想・信条に合わない『唱和』だったとしても、それが直ちに『思想・良心の自由』に反するとは認められないことになります。その処分は違反行為の内容と均衡を保ったものにならなければなりませんが・・・」
このように、職場で『唱和』を拒否したら、職務命令違反として処分されてもやむを得ないということだ。しかし、最近の若い人たちの感覚なら、「唱和なんてダサい」と思うかもしれない。大川弁護士も、「『唱和』を嫌う若い人たちが増えていると思われていますので、使用者は、従業員に気持ちよく働いてもらうためにも、このような習慣は止めたほうが良いと個人的には思います」と話している。
(弁護士ドットコム トピックス)
【取材協力弁護士】
大川 一夫(おおかわ・かずお)弁護士
大阪弁護士会所属、元同会副会長。
労働問題特別委員会委員、刑事弁護委員会委員など。日本労働法学会会員、龍谷大客員教授、大阪府立大非常勤講師。連合大阪法曹団幹事、大阪労働者弁護団幹事など。
事務所名:大川法律事務所
事務所URL:http://www.okawa-law.com