2013年08月05日 12:00 弁護士ドットコム
喫茶店チェーン「カフェ・ベローチェ」を雇い止めになったアルバイトの女性が7月下旬、雇い止めは無効であると主張して、東京地裁に提訴した。
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報道によると、女性は2003年~07年と08年7月~13年6月、アルバイトとしてカフェ・ベローチェに勤務。この間、3か月ごとの契約更新を計30回以上繰り返した。ところが昨年、会社側から契約更新回数を上限15回までとするルールが通達され、女性は今年6月に「雇い止め」の通告を受けた。女性はその際、「従業員が入れ替わらないと店の鮮度が落ちる」と言われたとして、損害賠償も求めているという。
今回争点となっている「雇い止め」とは、そもそも何なのだろうか。また、法律は「雇い止め」に何らかの制限を設けているのだろうか。労働問題にくわしい白鳥玲子弁護士に聞いた。
●アルバイトにも「契約更新の期待権」がある
「まず、有期雇用契約というのは、3か月契約や1年契約といった形で、働く期間が定められている労働契約です。アルバイトや派遣社員など、いわゆる非正規雇用の労働者に多く見られる契約です。
今回問題となっている『雇い止め』は、契約の更新をしないで、契約上の期間が満了した時点で辞めてもらうことです」
それだけ聞くと、今回のケースは契約が無事に終了しただけ――と受け止めることもできる気がする。契約が更新されないことに、何の問題があるのだろうか。
「従業員からすれば、いくら有期雇用契約と言っても、何度も契約が更新され長期にわたって働き続けていれば、契約が次も更新されるだろう、今後も働き続けられるだろうと期待するようになります。これを『契約更新の期待権』と言います」
確かに、いくらアルバイトとはいえ長期間、問題無く働き続けていれば、突然首を切られることを前提に生活設計はしないだろう。この期待権は法的にも認められているのだろうか。
「はい。最高裁は、一定の条件を満たす場合には『雇い止め』は許されず、同じ条件の契約が更新される、として、この権利を保護する判断を示しています。
これは『雇い止めの法理』と呼ばれ、昨年改正された労働契約法19条(2012年8月施行)にも盛り込まれました。この『雇い止めの法理』は今度の裁判でも大きな争点の一つとなるでしょう」
「雇い止めの法理」をざっくりと説明すると、有期雇用契約でも何度も更新を繰り返すなど、実質的に無期雇用契約と変わらない場合には、雇い止めは「無期雇用の解雇」と同じ扱われる――言い換えれば「雇い止め」をする際に、解雇と同じ条件を満たす必要が出てくるということだ。
それにしても昨年、そんな法改正があったなら、なぜこのタイミングで女性は「雇い止め」されたのだろうか。
●有期雇用が5年以上反復・継続されたら「無期雇用」にできるようになった
「昨年の労働契約法改正では、有期労働契約が反復更新されて通算5年を超えたときは、労働者が申し込むことで、契約を『期間の定めのない労働契約』に転換できるというルールが導入されました。このこととの関係性が深いと考えられます」
アルバイトでも、5年以上働き続けたら、その後は簡単にはクビにされなくなる……ということは経営者側から見れば、クビにできなくなる前に、先手を打って雇うのをやめてしまおうということになりかねないのでは?
「そうですね。この『無期労働契約への転換』という新しいルールは、労働市場に対してとても大きなインパクトを与えました。負担増を警戒する経営者側が、転換をされる前に『雇い止め』を強行するのではないかという懸念は、改正前からすでにありました。
今回のベローチェの案件は2003年~07年と08年7月~13年6月にアルバイトとして働いてきた方であり、後半の勤続年数が4年11か月での『雇い止め』ということですので、典型例といえるのではないでしょうか」
それにしても、もし労働者を保護するためのルールが、何の問題も起こしていないベテラン従業員をクビにする理由を生み出してしまったとすれば、何とも皮肉な話ではないか。白鳥弁護士は「そもそも、労働契約法が改正された目的は、雇用を安定させるためです。経営側には法律の趣旨を尊重した対応が求められると思います」と、苦言を呈していたが……。もともと想定されていた事態なのであれば、国も早急に何らかの手を打つべきではないのだろうか。
(弁護士ドットコム トピックス編集部)
【取材協力弁護士】
白鳥 玲子(しらとり・れいこ)弁護士
茨城県つくば市出身。2005年弁護士登録(東京弁護士会)。労働事件(労使双方)を専門とするほか、遺言書作成・遺産分割・離婚・成年後見等の家事事件が多数。保険会社の代理店顧問を務めており、交通事故案件も多い。一児の母として子育てにも奮闘中。
事務所名:城北法律事務所
事務所URL:http://www.jyohoku-law.com/