2013年08月01日 21:10 弁護士ドットコム
日本は治安のいい国と言われるが、年間約30万件も発生している犯罪がある。それは「自転車泥棒」だ。犯罪白書によると、窃盗認知件数のうち約3割に及ぶ。
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それだけ身近な犯罪といえる自転車泥棒だが、もし盗まれた自転車で事故が起きた場合、元の所有者の責任はどうなるのだろうか。
たとえば駅前で、ブレーキの効きが悪い自転車を盗まれたとする。盗んだ犯人はブレーキのことを知らないので、うまく止まれずに人をはねてしまった。犯人は逃走し、自転車の持ち主である自分のところに被害者から連絡がきた――というような場合だ。
事故を起こした自転車の「所有者」はたしかに自分であり、その自転車が整備不良だったのも事実だ。そんな場合も、持ち主としての責任を問われ、損害賠償に応じなければいけないのだろうか。高橋浩嗣弁護士に聞いた。
●場合によっては「責任」が問われる可能性も
「損害賠償について、民法では『自己責任』が原則になっています。他人の行為で発生した損害について責任を負わされることは、基本的にはありません。
しかしそこには、さまざまな例外があります。つまり、今回はそういった『例外』にあたるかどうかが問題になります」
――どんな例外がある?
「順に見ていきましょう。交通事故で第三者の責任といえば、まずは車の管理者などが負う『運行供用者責任』(自動車損害賠償法3条)が思い浮かびますが、この法律は『自転車』には適用されません。
また、他人を雇ってやらせたわけでもないので『使用者責任』(民法第715条)にも該当しませんし、未成年者などに対する『監督義務者等の責任』(民法第714条)も今回は関係ありません」
――例外にはあたらない……となれば、今回のようなケースでは責任は問われない?
「おそらくそうでしょう。しかし、次の条件にあてはまるような場合は、話が別です。
(1)人通りが多い駅前に
(2)ブレーキが壊れていると分かっている自転車を
(3)あえて施錠することなく
(4)長期間にわたって放置していた
このような場合、持ち主がそのような形で自転車を放置していた行為と事故の間の因果関係が認められ、損害賠償責任を負う可能性が発生します」
――そもそも、ブレーキの調子が悪い自転車を放っておくのはよろしくない?
「『損害賠償』からは話がずれますが、道交法は、制動装置(ブレーキ)の性能が基準に満たない自転車は運転してはならないとしています(道交法63条の9 1項)。
この『制動装置』の基準は、乾燥した平らな舗装道路を時速10キロで走っていたとき、3メートル以内に停止できる性能が必要だとされています(道交法施行規則9条の3)。
これに違反した場合には、5万円以下の罰金が定められています(道交法120条1項8号の2)。ブレーキの整備は怠らないようにしてください」
自転車といえば、最近は自転車による交通事故でも、高額な損害賠償が命じられる場合が増えているようだ。高橋弁護士は「自転車だと侮ることなく、保険に加入されることをお勧めします」とアドバイスしていた。
(弁護士ドットコム トピックス編集部)
【取材協力弁護士】
高橋 浩嗣(たかはし・ひろつぐ)弁護士
広島弁護士会所属、広島簡易裁判所民事調停官、広島大学非常勤講師、広島弁護士会業務改革委員会副委員長
事務所名:高橋総合法律事務所
事務所URL:http://www.law-takahashi.jp/