2013年07月31日 17:30 弁護士ドットコム
青森県十和田市の公立小学校事務職員が、市から児童の保護者に支給されるはずの就学援助費などを着服したとして、懲戒免職になった。
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青森県教委によると、この元職員が横領したのは2011年度分と12年度分の就学援助費と就学奨励費計約13万円。職員は横領のため、保護者の領収書や、学校から市教委に提出する個人支給明細書などを偽造していたという。一方、十和田市教育委員会は、この職員が事件発覚後に全額弁済したため、「刑事告訴はしない方針」だ。
今回の職員の行為は「犯罪」にあたるように思えるが、告訴がなければ捜査もされず、犯罪にもならないのだろうか。また、実際の司法機関の運用としては、横領行為が発覚しても、返済されていれば立件されないのだろうか。刑事事件にくわしい小笠原基也弁護士に聞いた。
●犯罪のすべてが起訴されるわけではない
「『親告罪』といって、告訴がなければ犯罪が成立しない罪もあります。しかし、私文書偽造や業務上横領は、親告罪ではありません。つまり、告訴がなくても犯罪が成立します」
――今回、犯罪が成立するとしたら、告訴がなくても起訴されて裁判になる?
「犯罪が理論上成立するということと、実際に起訴されるかどうかは別の話です。犯罪があって、それについて捜査がなされたからといって、全てが起訴(検察官が裁判所に対し、有罪判決を求めて公訴を提起すること)されるわけではありません。
起訴するかどうかは、検察官が公益の代表者として判断します。検察官は捜査の結果、犯罪が十分に証明できると考えても、様々な事情から起訴しない場合があります。これを『起訴猶予処分』といいます」
――どんなときに『起訴猶予』になる?
「検察官は、行為の悪質性や結果の重大性のほか、様々な事情(情状)を考慮したうえで、『社会秩序を維持し、法益を保護するため、裁判をする必要があるかどうか』を判断します。もし必要がないと判断すれば、起訴猶予処分にします」
――では今回のケースは、仮に警察が捜査をし、検察が判断することになったとしても起訴猶予になった?
「本件における判断のポイントは次の4点です。
(1)被害金額が高額といえないうえ、全額弁償されていること
(2)被疑者が反省していること
(3)被疑者が懲戒免職やマスコミ報道などですでに社会的制裁を受けていること
(4)被害にあった人の処罰意志が強くないこと
これらの事情を考慮すれば、今回のケースは起訴猶予となりうる事案と考えられます」
なるほど、判断の際には、反省の程度や社会的制裁の度合いなども考慮されるということだ。懲戒免職になった元職員はまだ23歳。この処分をきっかけにして、ぜひ立ち直ってほしいものだ。
(弁護士ドットコム トピックス編集部)
【取材協力弁護士】
小笠原 基也(おがさわら・もとや)弁護士
岩手弁護士会・刑事弁護委員会 委員、日本弁護士連合会・刑事法制委員会委員
事務所名:もりおか法律事務所