2013年07月30日 21:30 弁護士ドットコム
「おいしい料理を食べに行かない?」——友人からなら嬉しい誘いでも、それが取引先を接待するための会食だったらどうだろう。話を合わせて場を盛り上げて、愛想笑いにお追従、取引先に気をつかい、げんなりしている人もいるのではないか。
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都内の会社で働く若手女性社員はある日、上司から取引先との会食に同席するように指示された。本当は帰りたくても、上司の命令なので出ないわけにはいかない。勤務時間が終わった後の18時から会食に付き合い、終了したのは23時だった。自分も飲み食いしたとはいえ、拘束は5時間におよんだ。
ネットのQ&Aサイトでも、Aさんと似たような経験をした人が「残業代は付きますか?」と質問している。これに対する回答は、「残業代が付く」「付かない」「平日の場合は付かないかないが、休日出勤だと出る」など、さまざまだ。どうやら会社によって取り扱いが違うようだが……。
このような勤務時間外の会食と「残業代」の問題は、法律的にはどのように考えるのが正しいのか。野澤裕昭弁護士に聞いた。
●取引先の接待は「残業」として認められる
「仕事で拘束された時間のどこまでが、労働基準法の『労働時間』として認められるのか――。学説や行政解釈は、その範囲を『労働者が使用者の指揮監督のもとにある時間』と定義付けています」
――具体的な判断基準はある?
「判断のポイントは、(1)義務性、(2)業務性、(3)指揮監督性の3つをすべて満たすかどうかです。
たとえば、上司から終業後、飲みに誘われ、断れずに付き合わされた場合を考えてみましょう。
まず、断れないという意味で、(1)の義務性はあります。しかし、単なる『飲み』は仕事とは見なされないため(2)の業務性はありません。したがって、労働時間にはなりません」
――それではAさんのケースはどうか?
「Aさんの場合は『労働時間』として認められる、つまり残業扱いになると思います。まず、上司の命令なので(1)義務性はあります。また、会食の相手が取引先なので(2)業務性もあります。最後の(3)指揮監督性についても、上司が会食中に同席しているので、クリアされると考えられます。
言い換えると、取引先との会食は仕事の一環で、そこで飲食するのも『接待のため』なので、労働時間と評価していいということですね」
なお、野澤弁護士は「取引先を接待する際に、女性社員に同席を命じる業務命令自体が、女性社員の人格権を傷つける可能性があり、疑問です」と付け加えていた。もちろん会食の性質にもよるのだろうが、場合によっては危ういケースもありそうだ。もし、女性社員をホステス代わりに無料で利用しよう――なんていう不届き者がいれば、手痛い反撃を覚悟しておいたほうがよさそうだ。
(弁護士ドットコム トピックス編集部)
【取材協力弁護士】
野澤 裕昭(のざわ・ひろあき)弁護士
1954年、北海道生まれ。1987年に弁護士登録。東京を拠点に活動。取扱い案件は、民事事件、刑事事件、労働事件、相続・離婚事件等家事事件。正確、最善をモットーとしている。趣味は映画、美術鑑賞、ゴルフなど。
事務所名:旬報法律事務所
事務所URL:http://junpo.org/