2013年07月29日 20:50 弁護士ドットコム
中国でこのほど、「家族は60歳以上の親族を頻繁に訪問しなくてはならない」と義務づける法律が施行され、日本でも話題になっている。
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報道によると、この改正「老年人権益保障法」は、離れて暮らす高齢者を定期的に見舞うことや、経済面・生活面で支援することを義務づける内容。中国では「一人っ子政策」の影響で高齢者の割合が急速に増加する一方、故郷を離れて都市部で働く若者が増え、高齢者の社会的なケアが大きな課題になっている。
今年7月には、77歳の母親が娘夫婦に自分の面倒をみることを求めた裁判の判決があった。裁判所はこの法律にもとづいて、母親の訴えをおおむね認めた。経済的援助に加えて、娘夫婦に2か月に一度は母親を訪問することを命じ、違反した場合は賠償金の支払いを命じる可能性もあるとした。
「親孝行」を実質義務化するこの法律に対しては、中国でも疑問の声が多く、ネットには「法律にするのはアホくさい」といった意見が出ているようだ。一方、日本の民法でも、親族間には「扶養義務」があるとされている。日本では、はたしてどこまで親孝行をしなければいけないのだろうか。石川一成弁護士に聞いた。
●日本の審判では「経済的扶養」が命じられるケースが大半
「日本の民法では親、子、孫といった直系血族および兄弟姉妹は、互いを扶養すべき義務があります。また、三親等内の親族間でも事情によっては扶養の義務を負うことがあります」
――その義務とはどんなもの?
「成人した子どもが年老いた親を扶養するという場面を考えると、法的義務の内容は、次のようなものです。
(1)親が最低限の生活すら保てない状況で、
(2)子どもに余力がある場合に、
(3)親に最低限の生活をさせること
一般的には、生活保護と同様の『生活扶助義務』とされています」
――何をすれば良いかは、決まっている?
「具体的な方法はケースバイケースです。それを決める手段は、まずは親子で話し合うことです。協議がうまくいかなければ、家庭裁判所の調停・審判で決めてもらうという流れとなります」
――典型的な「扶養」の中身は?
「大きく分けると、同居や定期的な訪問で親の世話をする『面倒見的扶養』と、お金を援助する『経済的扶養』の二つがあります。
審判となった場合、日本では、経済的扶養として一定月額の扶養料の支払いが命じられるケースが大半です。金額は生活保護と同様の『生活扶助の範囲』となります」
――「親の面倒をみろ」という審判はなぜ少ない?
「面倒見的扶養については、当事者の意思を尊重するべきで、あくまで親子双方の合意が前提となりますから。親を引き取って扶養するよう命じた『引取扶養』の審判例はいくつもありますが、親への訪問を命じた審判例は調べた限りでは見当たりませんでした。
ただ、日本でも加速度的な少子高齢化の進行により、扶養を必要とする高齢者がますます増えています。介護保険だけでは到底、その全てをカバーし切れないでしょう。
こういった現状からすれば、中国のように法律ではなく、あくまで家庭裁判所が下す審判の内容としてですが、扶養義務の一方法として、子どもに老親への訪問を命じるようなケースも十分に考えられるでしょう」
(弁護士ドットコム トピックス編集部)
【取材協力弁護士】
石川 一成(いしかわ・かずなり)弁護士
第二東京弁護士会所属。家事事件を中心に民事、商事事件を幅広く取り扱う。離婚事件に関しては数百件関わった実績がある。
事務所名:杉並民事家事法律事務所
事務所URL:http://www16.ocn.ne.jp/~healing/bengosi.html