2013年07月28日 14:01 弁護士ドットコム
夏は、海よりも涼しい山が一番。そんな「山派」の人も多いことだろう。世界遺産入りした富士山、根強い人気の日本アルプス。今夏も山は賑わいそうだ。
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だが爽快な登山を興醒めにするのが、山小屋の混雑だ。お盆休みなどの繁忙期、人気エリアの山小屋では、1つの布団を1人で使えないほどの混雑も珍しくない。なかには「1枚の布団に4人」といった辛い体験をした人もいる。
すし詰めの原因として、「遭難防止のために、山小屋は客を断れないから」というもっともらしい説明も聞く。だが、少数派ながら予約客限定の山小屋も実在する。本当のところは、どうなっているのだろうか。宿泊者はすし詰めを我慢しなければならないのだろうか。
また昨今の山人気で、以前は過密とは無縁だった「避難小屋」でも問題が起きている。管理人がいない避難小屋を営業山岳ツアーの大グループが占拠し、後から来た登山者が入れなかったという苦情が増えているのだ。このように避難小屋を宿代わりに利用してもいいのだろうか。山小屋をめぐる諸問題について、山にくわしい溝手康史弁護士に聞いた。
●山小屋の宿泊契約の内容に「快適さ」は含まれない
「まず、山小屋の『すし詰め状態』をどう考えるかですが、予約制ではない山小屋の場合は、すし詰めになっても文句は言えません。快適さは、宿泊契約の内容に含まれていないのです。
逆に、予約制の山小屋で、すし詰め状態になれば、契約違反・損害賠償の問題が生じ、山小屋側の責任が問われるでしょう。また、ツアー登山でも、最初からそのような説明のある場合を除き、すし詰め状態になれば、旅行会社に損害賠償責任が生じるでしょう」
――「遭難防止のために、山小屋は客を断れない」という噂は本当?
「いえ、法律でそう決まっているわけではありません。山小屋には旅館業法が適用されますので、正当な理由なしに宿泊を拒否することはできませんが、『満杯』であれば、宿泊を拒否する正当な理由になります」
――避難小屋については?
「本来、避難小屋は緊急時の避難に使うべきものであり、宿泊小屋ではありません。したがって、ツアー登山者などが宿泊のために『場所とり』をするのは違法なはずです。
ところがまぎらわしいことに、現実には、管理人を置いて使用料を徴収する公営の『避難小屋』があるのです。こういった『避難小屋』は、管理者である自治体等が宿泊用の立派な建物を設けて運営していて、一般登山者の宿泊を容認しています」
――では、避難小屋といってもケースバイケースで、一概には言えない・・・・?
「そうですね。避難小屋の『場所とり』がダメかどうかは、管理者である自治体等の判断次第となりますが、自治体の考えはよくわかりません。
なお、避難小屋であっても一定規模以上であれば、『宿泊施設』とみなされ、消防法により消火器等の消防設備の設置が必要です」
これが、登山ブームの副産物なのだろうか……。本来ならば山にまで法律問題を持ち込むべきではないのかもしれないが、そうとも言い切れない、せつない現状が出てきているようだ。地元自治体も含めて、山でのルールやマナーをもう一度、見直す時期が来ているのかもしれない。
(弁護士ドットコム トピックス編集部)
【取材協力弁護士】
溝手 康史(みぞて・やすふみ)弁護士
弁護士。日本山岳サーチ・アンド・レスキュー研究機構、国立登山研修所専門調査委員会、日本山岳文化学会、日本ヒマラヤ協会等に所属。著書に「登山の法律学」(東京新聞出版局)等。アクタシ峰(7016m)等に登頂。
事務所名:溝手康史法律事務所
事務所URL:http://www5a.biglobe.ne.jp/~mizote/