2013年07月26日 15:20 弁護士ドットコム
不倫相手の女性と結婚するため、ニセの離婚届を提出した長野県の消防署員の男(31)がこのほど、有印私文書偽造・同行使などの容疑で逮捕された。
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報道によると、男は今年1月21日、妻に無断で離婚届を偽造し、役所に提出した疑いがもたれている。この「離婚」については、妻が家庭裁判所に申し立てた調停によって、4月10日に「離婚無効」の審判が確定した。
ところが男は、離婚無効の判断が下される直前の4月5日、不倫相手の女性との婚姻届を役所に提出していた。この女性とは結局、5月10日に離婚が成立することになったが、約1カ月間は「重婚状態」だったという。男は、所属していた消防組合を懲戒免職になるとともに、重婚などの容疑で刑事告発された。警察の捜査は、重婚罪も視野に入れているという。
今回、「離婚」は家裁の調停で無効になったが、それによって戸籍なども自動的に元に戻るのだろうか。また、不倫相手の女性との「婚姻」は、法律上どのような扱いだったのだろうか。吉田雄大弁護士に聞いた。
●最終的に戸籍を戻すためには、調停での合意や、裁判所の判決などが必要
「離婚届が偽造であれば、離婚は『無効』となります。たとえ離婚届が役所に受理され、戸籍が書類上は別々となっているとしても、法律的には結婚が続いていると解されるのです」
――では、戸籍は自動的に戻る?
「いいえ、自動的には戻りません。『離婚無効』を確定させ、戸籍に反映させるためには、問題となったケースのように、離婚無効を確認する調停を家庭裁判所に申し立てる必要があります。調停で合意し、家裁がそれを認めれば、『合意に相当する審判』(家事事件手続法277条1項)が出て、戸籍が元に戻ります。
一方、調停が決裂したり、家裁が合意を認めなかったりしたときには、あらためて裁判を起こす必要があります」
―― 一方で、不倫相手との『婚姻関係』はどうなる?
「離婚無効となれば、夫と不倫相手との間の結婚は重婚の禁止(民法732条)に抵触し、婚姻取消しの理由になります(民法744条)。
ただ、こちらは自動的にというわけではありません。『取消』は一般に、法律で認められた人(取消権者)がそう決めた場合に、はじめて効果を発揮し、以前に遡って最初から無効という扱いになるからです。しかも婚姻取消しの場合は『将来に向かってのみその効力を生ずる』(民法748条1項)とあるとおり、過去には遡らず、取り消された日以降の婚姻の効果が失われるに過ぎません。
そこで、夫の『重婚状態』を妻が解決するためには、夫および不倫相手を相手取り、婚姻取消しの調停を家庭裁判所に申し立てる必要があります(民法744条2項により、妻にも申立権限があります)。
調停での話合いがまとまれば『合意に相当する審判』がなされますが、決裂した場合には別途、裁判が必要――というのは離婚無効の場合と同様です」
――夫の「逮捕」は何か影響がある?
「刑事裁判の行方次第では、検察官や市町村長を通じて、戸籍が訂正される可能性もあります。
もし夫が有印私文書偽造、同行使罪で有罪となれば、通常は離婚届の偽造部分を没収するとの判決が言い渡されることになるでしょう(刑法19条1項1号、3号)。
そして、この判決が確定すれば、検察官が本籍地の市町村長に、『戸籍の記載が法律上許されない』という届出を行います(戸籍法24条3項)。さらに市町村長が、戸籍訂正の申請をするよう、当事者への通知を行います(同条1項)。なお、当事者の申請がなくても、法務局長の許可を得て、市町村長が職権で訂正することもできるとされています(同条2項)」
吉田弁護士によると「離婚届が偽造されるケースは実務上しばしばある」とのことだ。しかし、今回の話を聞く限り、ニセの書類を提出してしまえば、より一層深い泥沼にはまりこむだけなのは明白だろう。いくら思い悩んでいたとしても、こういった犯罪には及ばないように注意したい。
(弁護士ドットコム トピックス編集部)
【取材協力弁護士】
吉田 雄大(よしだ・たけひろ)弁護士
2000年弁護士登録、京都弁護士会所属。同弁護士会子どもの権利委員会委員長等を経て、2012年度同会副会長。このほか、日弁連貧困問題対策本部事務局員など。
事務所名:あかね法律事務所
事務所URL:http://www.akanelawoffice.jp/