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「冤罪」の疑いがある袴田事件 「再審」はどのような場合に始まるか?

2013年07月25日 19:30  弁護士ドットコム

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「犯人」と目された死刑囚の47年にもわたる長い拘禁が続き、「世界で最も長く収監されている死刑囚」としてギネスブックにも掲載されている袴田事件。強盗殺人罪などで1980年に死刑判決が確定したが、第1回公判から一貫して無罪を主張している袴田巌死刑囚は、死刑確定の翌年から再審請求をおこない、いまも第2次再審請求の審理が続いている。


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事件が起きたのは約半世紀前の1966年。静岡県清水市(現在の静岡市清水区)で、みそ製造会社の専務一家4人が殺害され、自宅に火がつけられた。2か月後に、その会社の社員で元プロボクサーの袴田死刑囚(当時30歳)が逮捕され、10年以上にわたる裁判を経て、死刑判決が確定した。



しかし、袴田死刑囚は警察の取調べで自白したものの、裁判では一貫して犯行を否認。取調べ過程での自白強要や証拠の捏造が強く疑われていることから、冤罪の可能性が長年、指摘されている。



このような動きのなか、袴田死刑囚の弁護団は現在、静岡地裁に2回目の再審請求を行なっている。そもそも、再審請求はどういう手続きで行われ、どのような場合に再審が認められるのだろうか。萩原猛弁護士に聞いた。



●「再審」とは、確定した判決を「再度審理」すること



この袴田事件で問題となっている「再審」とは何だろうか?



「刑事裁判における再審とは、すでに『確定』した判決について、一定の要件がある場合に、『再度審理』することです」



再審手続きは2段階の構造になっているという。



「再審の手続は、『請求手続』と『公判手続』の2段階になっており、『請求手続』で『再審理由』が認められれば、再審開始の決定がなされます」



袴田事件でいま行われているのは、第1段階の「請求手続」だ。刑事訴訟法435条は、再審理由を1号から7号まで定めている。



「実際に再審請求される多くのケースは、6号の『有罪の判決が下されているが、無罪や軽い罪を認めるべき明らかな証拠をあらたに発見したとき』という理由によることが多いです」



●再審開始には、「明らかな証拠」を「あらたに発見」することが重要



この『明らかな証拠(明白性)』を『あらたに発見(新規性)』したとき」の内容をどう考えるかについては、2通りの考え方があるという。



1つ目の考え方は、厳格に解釈しようというものだ。



「いったん確定した判決が簡単に覆されるということになれば、刑事裁判に対する信頼性は損なわれます。この考え方を重視すると、『明白性』や『新規性』についても厳格に解することになります」



裁判の信頼を重視し、再審の間口を狭くとろうという考え方だ。もう1つの考え方は、もっと柔軟に解釈しようとするものだ。



「世の中にやってもいないことで処罰されること以上の不正義はありません。また再審は、有罪判決を受けた者の利益のためにすることができるだけであり、不利益再審はできません(刑訴法435条柱書)。こういったことから、『誤判からの救済』を重視する立場もあります」



こちらでは再審の間口は広くなる。では今の裁判所はどっちの立場に立っているのか?



「最高裁は、1975年の白鳥事件の再審請求の際の、いわゆる『白鳥決定』(最決昭和50年5月20日)において、『明白性』の判断について、『再審開始のためには確定判決における事実認定につき合理的疑いを生ぜしめれば足りるという意味において、疑わしいときには被告人の利益にという刑事裁判における鉄則が適用される』としています。



この白鳥事件の際は、再審請求自体は棄却していますが、このように誤判からの救済機能を重視する後者の考え方をとっているといえます」



この決定以後、裁判所は間口を広げる方向で考えるようになり、弘前大学教授夫人殺人事件・米谷事件・滝事件・財田川事件・免田事件といった多くの事件に再審の道を開いたと言われている。



●「明らかな証拠」とはどんなものか?



それではどんな証拠が「明らかな証拠」であるといえるのだろうか?



「端的に言うと、旧証拠を再評価し直したうえで、そこに新証拠を加えて総合的に全証拠を評価した時に、被告人を有罪とすることに合理的な疑問が生じれば『明白性』が肯定されます」



「あらたに発見」というのはどのようなことをいうのか?



「2010年3月に再審無罪となった『足利事件』では、DNA型鑑定の技術の進歩が『新証拠』を生み出しました。しかし、科学技術の進歩によって『新証拠』が発見される事件は少数派かもしれません」



実は、被告人を有罪にするためには不利または無駄であるとして、捜査機関が裁判所に提出せずに持っている証拠が「新証拠」の宝庫であると、萩原弁護士は指摘する。



「捜査の過程で警察や検察が収集した証拠は、その全てが裁判所に提出されるわけではありません。検察官が不要と考えた証拠は、裁判所に提出されることなく検察庁に眠っているのです。しかし、過去の冤罪事件に照らして、この眠った『証拠』が再審開始を導く『新証拠』となる可能性を誰も否定できないでしょう」



●「眠っている証拠」を捜査機関に提出させる「証拠開示」制度



この握りつぶされた証拠を捜査機関に提出させるのにはどうしたら良いのか?



「ここで、『再審請求審における未提出証拠の開示』という方法が重要となります。現在、第2次再審請求審の審理が続いている『袴田事件』においても、静岡地裁は、検察官に対して、未開示の供述調書等130通を開示するよう勧告したとの報道がありました。



税金を使って集めた『証拠』は警察官や検察官の所有物ではありません。再審だけでなく、通常の刑事裁判の審理においても、今後、ますます『証拠開示』の重要性は高まるでしょう」



と萩原弁護士は語っている。


(弁護士ドットコム トピックス編集部)



【取材協力弁護士】
萩原 猛(はぎわら・たけし)弁護士
刑事弁護を中心に、交通事故・医療過誤等の人身傷害損害賠償請求事件、男女関係・名誉毀損等に起因する慰謝料請求事件、欠陥住宅訴訟その他の各種損害賠償請求事件等の弁護活動を埼玉県・東京都を中心に展開。
事務所名:大宮法科大学院大学リーガルクリニック・ロード法律事務所
事務所URL:http://www.takehagiwara.jp/