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店で食事を終えてから「財布を忘れた」ことに気づいたら――無銭飲食で犯罪になる?

2013年07月24日 19:31  弁護士ドットコム

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レジで会計をしている最中に、財布を持っていないことに気づく――そんな経験は、誰でも一度や二度、あるのではないだろうか。人気アニメ『サザエさん』の歌にも「買物をしようとして、財布を忘れた」という場面が登場するが、実際に直面すると「愉快だ」と笑っていられる状況ではない。


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特に笑えないのは、飲食店で料理を食べ終えてから財布を持っていないことに気付いたときだ。スーパーやコンビニでの買い物なら、商品を棚に戻せば済む。しかし飲食店では、会計の前に食べる場合がほとんどなので、気付いたときにはもう遅い。元通りに戻すことはできないのだ。



このように「財布を忘れて食事」をしてしまった場合、犯罪になってしまうのだろうか。中村憲昭弁護士に聞いた。



●ウソをついて立ち去れば「詐欺罪」になる



「今回問題となるのは、詐欺罪です。詐欺とは、人を騙して物や財産上の利益を得ることです。いわゆる『食い逃げ』は、この詐欺罪にあたります。



店で食事を注文すれば、通常、代金を支払う意思があるとみなされます。最初から支払う意思がないのに、それを隠して注文すれば『騙す』ことになり、その時点で詐欺罪になります」



――では、後から「財布がない」ことに気づいたら?



「それは話が別です。注文した時点では支払う意思があったのですから、その時点では詐欺罪は成立しません。詐欺罪の場合、故意がなければ――言い換えれば、『詐欺という犯罪』を犯す意思がなければ、成立しません」



――では、「財布を忘れた」は、犯罪にはならないから安心していい?



「いえ、注意しなければならない点はあります。食後、レジを通る際に、支払いを免れるために嘘をつけば、その時点で詐欺罪が成立します。人を騙して『代金支払いを免れる』という利益を得たことになるからです。



たとえば『ちょっとトイレに行って来る』とか『銀行からお金を下ろします』と店員に伝え、そのまま立ち去れば、詐欺の実行行為になります」



――下手なウソは厳禁ということか。支払いをしなければ、必ず詐欺罪になる?



「非常に例外的なケースで、詐欺罪にならない場合もあります。それは食事を終えた後で財布を忘れた事に気づいたが、その後、誰にも会わずに店から立ち去ることができた場合です。



注文時には故意がないので詐欺は成立しませんし、店を出る時点でも人を騙していないので、詐欺の実行行為がありません」



――それができれば、逃げ得になる?



「いいえ、逃げ得になることは決してありません。食事をして代金を払わなければ、店からは食い逃げだと疑われ、通報されます。



そうなれば、もし最終的に犯罪が成立しなくても、店や警察への弁明のために貴重な時間を費やすことになりますし、信用も失います。これは、非常に無駄なことです。



また、立ち去れたからといって、民事上の支払い義務が消えるわけではありません」



つまり、注文後に「財布がない!」と気づいたら、ウソは一切厳禁。誠意を尽くして事情を店に説明し、きちんと納得してもらった上で、できるだけ早く支払うしかないということだろう。


(弁護士ドットコム トピックス編集部)



【取材協力弁護士】
中村 憲昭(なかむら・のりあき)弁護士
保険会社の代理人として交通事故案件を手掛ける。裁判員裁判をはじめ刑事事件も多数。そのほか、離婚・相続、労働事件、医療関連訴訟なども積極的に扱う。
事務所名:中村憲昭法律事務所
事務所URL:http://www.nakanorilawoffice.com/