2013年07月21日 13:31 弁護士ドットコム
「ユニクロ」を運営するファーストリテイリングとネット通販の楽天が昨年、社内会議や書類の作成を英語で行う「英語公用語化」を実施し、話題を呼んだ。公用語化まで至らなくても、社員にTOEIC受験を義務付ける会社は増えている。
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だが、AERA7月8日号の『消える楽天らしさ 英語公用語化で社員ため息』という記事によれば、カタコト英語で行われた社内会議の後で、「英語で説明したあの件だけど意味を取り違えてないよね」と携帯電話で確認しなければならず二度手間となっている、若手社員が客先で横文字を連発して困る、といった不満の声が楽天社内で上がっているという。
英語公用語化は、特に英語が苦手な社員にとっては、コミュニケーションの困難に加え、時間外に英語の勉強も必要となる。心身ともに大きなストレスとなりそうだ。「入社のときに、そんなこと聞いていないよ・・・」と嘆いている社員もいるだろう。経営者による突然の英語公用語化やTOEIC義務化を拒否することはできないのか。またあらかじめ、これを防ぐ手段はないのだろうか。佐久間大輔弁護士に聞いた。
●会社の突然の「英語化」は、労働法上無効となる可能性も高い
「海外支店で外国人の中で勤務するなど、英語を使って当然の条件で入社した場合は別ですが、入社時点で、普通の部署で日本語を使って働いていたのでしたら、日本語を使って働けばいいという労働契約が成立しているものと考えられます」
では、英語を公用語とする変更はどう考えればいいのだろうか。
「会社が突然、就業規則を変えて英語使用を義務化したり、TOEICの成績によっては降格や減給をするとの規定を設けたとしたら、『就業規則の不利益変更』となり、労働契約法10条に定める必要性や合理性などの事情を満たさなければ、その変更は無効です」
つまり、法律的には、必要性が疑わしいような「英語公用語化」の就業規則変更は無効で、社員が従う義務はないようだ。
●英語ができないという理由だけでの「降格」は、権利の濫用になる可能性も
それでは、「就業規則」の変更までは行わないが、英語力を社員の査定の判断材料にすることはどうか?
「就業規則が変更されなくても、英語ができないという理由だけで査定により降格や減給をすることは、業務上の必要性がなく、大きな不利益を労働者に課すことになるので、権利の濫用として、これも無効となる場合があります」
たとえば、外国人と話す部署でもないのに英語が苦手で降格させられたというような場合は、もし社員が裁判をしたら勝てそうな気もするが、現実にはそう簡単にいかないようだ。
「もし裁判に訴えたとしても、『就業規則の拘束力や降職等の効力は無効』という判決が確定しなければならないので、それまでは社員が会社の命令を拒否すると、業務命令違反で懲戒されてしまうおそれがあります」
懲戒解雇された場合でも、裁判に勝てば、最終的にその間の給料も支払われるとはいうものの、裁判中の生活をどうするかなどの現実的な問題に直面してしまう。
また、この会社の「英語化」で、勤務時間外に英会話学校に通わざるを得なくなる場合はどうなのか?
「社員に高いレベルの英語力を求めるのであれば、教育訓練として一定の学習期間を設け、会社が費用負担し、語学教室に通う時間も残業として認めるべきです」
「英語化」による社員の負担増は会社が負うべきだという。以上のことを踏まえて、「導入時に労使できっちりと話し合うことが必要です」と佐久間弁護士は指摘している。
(弁護士ドットコムニュース)
【取材協力弁護士】
佐久間 大輔(さくま・だいすけ)弁護士
東京弁護士会所属。日本労働弁護団常任幹事。過労死弁護団全国連絡会議幹事。著書に、「精神疾患・過労死」(中央経済社)、「労災・過労死の裁判」(日本評論社)、「安全衛生・労働災害」(旬報社)など多数。
事務所名:つまこい法律事務所
事務所URL:http://tsumakoi-law.com/sakuma-daisuke/