2013年07月17日 16:50 弁護士ドットコム
住宅の敷地内に大量のごみをため込む「ごみ屋敷」について、大阪市がごみの強制撤去などを可能にする条例制定に向けて動き出している。すでに新条例の概要を固め、市民に向けて提示し、パブリックコメントを7月19日まで募集しているのだ。
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大阪市の発表などによると、今年3月時点で77件のごみ屋敷が同市内に存在し、悪臭や害虫などで地域の生活環境が損なわれている。周辺住民からも苦情が出ているが、ごみを撤去するための法的根拠がないため、対処しかねているという。
条例案の骨子では、ごみ屋敷に対して、次のような4段階での対処計画が説明されている。それは、(1)ごみ屋敷の存在を把握したら、(2)各区役所が地域と連携して対策を話し合う「対策会議」をひらき、(3)その後、命令や支援の公平性・客観性を担保する「審査会」を経て、(4)最終的には撤去命令や強制執行などの行政処分も視野にいれた対策を講じるというものだ。
経済的支援も含め、自主的な撤去の支援を中心にすえているとはいえ、最終的には強制撤去もありうるというこの条例案、法律家はどう見ているのだろうか。同様の条例はすでに東京都足立区や富山県立山町などでも制定されており、ごみ屋敷は全国的な問題になっているようだが・・・・。行政事件にくわしい湯川二朗弁護士に聞いた。
●同じモノでも「ごみ」になったり、ならなかったりケースバイケース
「実は、廃棄物処理法は『ごみ屋敷』をどうにもできないのです」。湯川弁護士はこう切り出した。
――なぜ、対処できないのか?
「最初に『ごみ』とは何かという問題から説明します。
周りから見れば『ごみ』でも、まだ使える、売れる、昔の思い出が詰まっているなどと言われると、法律でいう『廃棄物』とは決めつけにくいですね。
記憶に新しいところでは東日本大震災の時、津波で破壊されて運ばれてきた船や家屋について『はたして廃棄物として処理して良いのか』と問題になりました」
――法律や判例には『ごみ』の定義はない?
「廃棄物処理法は、『廃棄物』を《ごみ、粗大ごみ、燃え殻、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物または不要物》と定義していますが、『ごみ』についての明確な定義はありません。
一方、判例や行政実務上の定義では、廃棄物とは《自ら利用し又は他人に有償で譲渡することができないために事業者にとって不要となった物をいい、これに該当するか否かは、その物の性状、排出の状況、通常の取扱い形態、取引価値の有無および事業者の意思等を総合的に勘案して決する》とされています。
要は、取引や廃棄の実情に合わせて、ケースバイケースで廃棄物となったりならなかったりするということです。おからや古タイヤなどはその典型的な例ですね」
●大阪市の条例案は、法律の穴を埋める「次善の策」
――「ごみ」の定義が難しいのはわかった。では、なぜ廃棄物処理法が役にたたないのか。
「仮にごみ屋敷に溜め込まれた『ごみ』が廃棄物に当たるとしても、ごみ屋敷の住民が『大事に溜め込んでいる』と主張したら、廃棄物処理法上の不法投棄(16条)や不法投棄を目的とした収集・運搬(26条6号)には当たりません。また、一般廃棄物処理基準に適合しない処分とも言えません。つまり、この法律に基づいた適正処理や撤去は困難なのです」
――他にもっと良い手段はないのか?
「筋道からいえば、最も適切な対処方法は、まず国会でごみ屋敷に対する法律を制定してもらうことですが、法律がないからといって、自治体が手をこまねいてみていることは許されないでしょう。ごみ屋敷が地域の生活環境を著しく損なっていることは事実で、それを放置することはできません。自治体が条例でごみ屋敷対策をしているのは、そういった事情に基づいた『次善の策』なのです」
――では、このような自治体の動きは歓迎すべき?
「そうですね。もちろん、ごみ屋敷に住む人の所有権や福祉に対しては、実体的にも手続的にも十分配慮する必要があります。しかし、地域の生活環境を保全するための最低限度の措置をとるため、このような条例を定めることは、たとえそれが強制的な方法を伴うとしても、許されると思います。
地域住民の要望を受け止めることは、地方分権時代の自治体に課された使命です。大阪市が、単に小手先の対症療法的な処置ではなく、法律の不備を補う条例を作ろうとしているのは、遅まきながら時代の要請に応えた動きとして評価できると思います」
(弁護士ドットコム トピックス編集部)
【取材協力弁護士】
湯川 二朗(ゆかわ・じろう)弁護士
京都出身ですが、東京の大学を出て、東京で弁護士を開業しました。その後、福井に移り、さらに京都に戻って地元で弁護士をやっています。なるべくフットワーク軽く、現地に足を運ぶようにしています。
事務所名:湯川法律事務所