2013年07月09日 15:30 弁護士ドットコム
インターネットで「動画」として公開されている講演会や討論番組の内容を、書き起こして「テキスト化(文字化)」するサービスをめぐって議論が起きている。
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物議を醸しているのはこの春スタートした「ログミー」というサイト。ネット上で見ることができる講演などの動画や音声を書き起こして、テキストにまとめるというサービスだ。元ライブドア社長の堀江貴文さんや2ちゃんねる元管理人の西村博之さんら著名人の対談やイベント動画などの記事が掲載されている。
しかし、6月中旬、ある講演の書き起こし記事をめぐって、その出演者が「掲載許可を出してない」とコメントしたことで、議論が沸き起こった。その後、問題となった記事はサイトから削除され、ログミーは「記事内の各発言の著作権は発言者の方に属します。問題のある場合は、発言者様ご自身からご連絡をいただきましたらすぐに削除いたします」と説明している。
記事は勝手に掲載するが、発言者から要請があれば削除する、というスタンスのようだ。動画をすべて見る時間のない人にとって、ログミーはありがたいサービスと言えるかもしれない。では、公開されている動画を書き起こしてテキスト化し、ネットで公開するのは、著作権法の観点から問題ないのだろうか。著作権にくわしい雪丸真吾弁護士に聞いた。
●動画のテキスト化は原則的に、「著作権者の許諾」が必要
「ネット上に動画として公開されている講演会の内容を書き起こしてテキスト化し、無断で掲載するというのは、著作権法上、問題があると思います」
雪丸弁護士はこのように説明する。では、どのような問題があるのだろうか。
「講演は、言語の著作物(著作権法10条1項1号)にあたり、著作権で保護されています。したがって、これを書き起こしてテキスト化し、ウェブ上に掲載するためには、少なくとも公衆送信権(同法23条1項)の権利処理、つまり原則的には、著作権者の許諾が必要となります」
つまり、ネット上で講演の動画を公開しているのだから、テキストのウェブ上への掲載も広く「許諾」している、という理屈は通らないということか?
「たしかに、今回のケースにおいては、そのような考えもありうるところではあります。
しかし、講演とテキストでは表現形式が大きく異なり、受け手(聴衆と読者)の印象も相当に異なると予想されます。また、伝播可能性の大きさも異なることなどを考えると、そこまでの許諾を認定するのは、やはり難しいだろうと思います」
雪丸弁護士によると、動画が会員限定の有料動画でも結論は変わらないという。また、「書き起こし」が講演の一部であっても、著作物であると判断されるという。
●著作権者の許諾がなくても、著作物の利用を可能にする規定とは?
一方、著作権法の中には、一定の場合には著作権者の許諾がなくても、著作物の利用を可能にする制限規定(同法第30条~50条)が用意されている。たとえば、著作権法40条1項には、以下のように記されている。
「公開して行われた政治上の演説又は陳述及び裁判手続(行政庁の行う審判その他裁判に準ずる手続を含む。第四十二条第一項において同じ。)における公開の陳述は、同一の著作者のものを編集して利用する場合を除き、いずれの方法によるかを問わず、利用することができる」
つまり、政治家の街頭演説などは、書き起こして公開しても問題ないというわけだ。では、今回のケースでは、「著作権法40条1項」は適用されないのだろうか。
「『政治上の演説』は、本来的に広く国民に伝達されることが予定されているもので、民主主義的観点からは、『政治上の演説』を広く報道できることが望ましいために設けられた規定です。
したがって、今回の講演が『政治上の演説』に該当すれば、本条で著作権者(講演の登壇者)の許諾がなくとも、テキストをウェブ上へ掲載することも許されるということになります。
今回、問題となったテキストはもう見ることができませんので、中身の検討ができませんが、講演のタイトルからすると、どうも『政治上の演説』とは言えなさそうですね。引用(同法32条1項)や時事の事件の報道のための利用(同法41条)も適用できないと思われます」
忙しいネットユーザーの一人としては、動画の書き起こしサービスはありがたいのが本音だ。できれば、事前に著作権上の問題をクリアしてから、公開してもらえると助かるのだが・・・。
(弁護士ドットコム トピックス編集部)
【取材協力弁護士】
雪丸 真吾(ゆきまる・しんご)弁護士
著作権法学会員。日本ユニ著作権センター著作権相談員。慶応義塾大学芸術著作権演習I講師
事務所名:虎ノ門総合法律事務所
事務所URL:http://www.translan.com/