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米国で研究が進むクローン技術を使った「ヒトES細胞」 日本でも作成できる?

2013年07月08日 12:21  弁護士ドットコム

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米オレゴン健康科学大の研究チームがこのほど、クローン技術を使って、ヒトの様々な細胞に変化可能な胚性幹細胞(ES細胞)の開発に成功したと発表した。


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報道によると、研究チームは9人の女性から122個の卵子の提供を受けて実験。卵子から核を取り除いた後、別人の皮膚細胞の核を移植して培養した結果、6個のES細胞作成に成功した。クローン技術でヒトのES細胞を作成したのは世界初だという。



京都大学の山中伸弥教授が作成した人工多能性幹細胞(iPS細胞)と違い、クローン技術によるES細胞作成にはヒトの卵子提供が必要。また、倫理的にもクローン人間作成に繋がるとして、日本での研究は「クローン技術規制法」によって規制されている。



オレゴン健康科学大の研究チームは、現在の手法でヒトのES細胞を胎内に戻しても、クローン人間はできないと分析しているが・・・・。なぜ米国で許されている研究が、日本では規制されているのか。そもそも、クローン人間の作成はどうして問題なのか。諏訪雅顕弁護士に聞いた。



●クローン人間が簡単に作られるようになると、人としての尊厳が相対的に低下しかねない



「クローン人間の作成が禁止され、研究も厳しく規制されている理由は、それが人間の生命倫理と直結する問題だからです。クローン技術規制法は、『特定の人と同一の遺伝子構造を有する人(人クローン個体)』や『人と動物のどちらなのか明らかでない個体(交雑個体)』を作り出すことが、人の生命や身体の安全確保、社会秩序に重大な影響を与える可能性を指摘しています」



――生命倫理とは?



「私見ですが、クローン人間の作成が許されない理由については、生命の尊厳という視点から考える必要があると考えます。生命が尊重される理由の一つには、生命の創造が難しいこともあるでしょう。



受精から成育まで、そのプロセスのひとつひとつが奇跡的な、生命の神秘と言えます。また、私たちの命は、多くの愛情によって形成・維持されています。こういったことが『人としての尊厳』の源になっているのです」



――具体的にはどんな影響が?



「もし、クローン人間が簡単に作れるようになると、こういった尊厳は失われ、人が生まれながらにしてもつ権利の価値も相対的に低下することになりかねません。生命を軽視し、人の価値が不平等な社会は、人類が目指すべき『幸福な社会』とは言いがたいですね。



また、クローン人間を作成する時に、様々な弊害が生ずるおそれもあります。人類がコントロールできない生物を創り出してしまったり、固体種を滅亡させてしまう危険性もあります。人間は科学万能主義を盲信してはいけないし、科学は自然に対して常に謙虚でなければならないと思います」



――いっぽうで日本でも「iPS細胞」の研究は盛んなようだが?



「iPS細胞の作成には卵子が不要です。クローン技術でES細胞を作り出すには未受精の卵子が必要で、卵子を取得する上で、女性に苦痛や不利益(損失)を与えてしまいます。また、単に機械的に卵子だけを提供させるといったことから、提供者がどういった人たちになるかの点も含め、人道上の問題も発生しやすいのです。山中教授らの研究は、こういった観点からも画期的だったと言えるでしょう。もちろん、この研究においても、生命倫理(法理)からの検証は常に必要になると思います」


(弁護士ドットコム トピックス編集部)



【取材協力弁護士】
諏訪 雅顕(すわ・まさあき)弁護士
諏訪法律事務所(長野県諏訪市高島1-6-9)0266-53-3460
長野県弁護士会会長
事務所名:諏訪法律事務所