2013年07月03日 17:51 弁護士ドットコム
夏になると活動が活発になるゴキブリ。どれだけ駆除しようとも、どこからともなくあの黒い影が姿を現すから不思議だ。
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編集者のYさん(男性)はゴキブリが大の苦手。夏が近づくと、先手を打ってゴキブリ駆除に乗り出すのが、この季節の恒例行事だという。
このYさん、去年の秋に引っ越しをしているのだが、その理由もゴキブリだった。自分でどんなに頑張って駆除しても、マンションの階下のテナントにある中華料理屋から、ゴキブリが侵入してきたというのだ。たしかに飲食店でのゴキブリ対策は永遠の課題であろう。
こうして引っ越しを余儀なくされたYさんであるが、ゴキブリを大量発生させた中華料理店に対して、引っ越し費用の賠償や慰謝料を求めることはできるのだろうか。瀬戸仲男弁護士に聞いた。
●分譲マンションの場合、所有者に管理義務がある
「もし住んでいたのが、分譲マンションなど『マンション法』の対象となる建物だったら、この法律にもとづいて、さまざまな請求ができます。同法は6条1項で『建物の管理・使用に関して、他の所有者の共同利益に反する行為をしない義務』を所有者に課しています。この義務は賃借人にも適用されます(6条3項)。
もしこの義務に違反した場合、マンション法57条~60条によって、行為の停止の請求、専有部分の使用禁止請求、競売請求、占有者に対する契約解除・引渡請求などの厳しい手段が認められています」
――では、それには当てはまらない一般的な賃貸マンションだったら?
「『不法行為』(民法第709条、710条)を法的根拠にして、損害賠償を請求することが考えられるでしょう。不法行為の要件にあてはまれば、損害賠償請求が可能になります」
――要件にあてはまるためには、どういう条件があるのだろうか。
「不法行為の要件にあてはまるというのは、一般的には次にあげる4つの条件をすべて満たしている状態のことです。
(1)加害者に故意、または過失がある
(2)違法性がある
(3)損害が発生している
(4)加害者の行為と被害者の損害との間に因果関係がある」
――今回のケースはだと、(1)の故意、過失は?
「中華料理店が十分な駆除対策をしていなければ、少なくとも『過失がある』とされるでしょう。立証という観点からは、中華料理店に駆除対策を採らせるために、文書でハッキリと苦情を言っておいて、証拠を残しておくことが肝心です」
――(2)の違法性については?
「ゴキブリの発生量等が、周囲の住人にとって、がまんすべき範囲(受忍限度)を超えているかどうかが問題となります。数匹程度のゴキブリが発生しても、それは受忍限度内だと判断されるでしょう。受忍限度を超えると判断されるためには、数十匹を超えるくらい大量発生している必要があると思われます(写真やビデオを撮っておきましょう)。
ただし、もしYさんが、階下に中華料理店があるのを承知で引っ越してきた場合には、不法行為は成立しにくくなります。これは『危険への接近の法理』と言われ、自ら進んで危険なもの(ゴキブリが発生する可能性が高い中華料理店)に接近した場合には、不法行為が成立しにくくなるという考え方です」
――(3)の損害の発生は?
「Yさんの部屋での駆除費用(薬剤や駆除業者の費用など)は、発生した損害に含まれそうです(領収証をなくさないように)。しかし、引っ越し代金や慰謝料までは『引っ越しをするのが通常』と判断されるような、酷い状況でなければ難しいかもしれません」
――(4)因果関係は?
「実は、これもなかなか判断しにくそうです。Yさんの部屋にいるゴキブリが本当はどこから来たのか? ゴキブリが教えてくれるわけでもありませんし、同じ建物に他の飲食店があれば、ますますわかりません(複数の原因があり得る場合には、民法第719条の共同不法行為を検討します)。本当に訴訟を起こすとなれば、決め打ちで『他には考えられない!』と言って、責任追及するということになりそうです」
――結論として、Yさんは訴えるべき?
「ケースバイケースですが、住んでいたのが一般的な賃貸マンションだったら、裁判をして割に合うケースとは言えなさそうです。そもそものアドバイスとしては『飲食店が近くにあるマンションには入居しないこと』が先決だと申し上げておきます。本当は『ゴキブリに負けない図太さ』を身につけるのが一番なのですが・・・・。無理ですかね!?」
(弁護士ドットコム トピックス編集部)
【取材協力弁護士】
瀬戸 仲男(せと・なかお)弁護士
アルティ法律事務所代表弁護士。大学卒業後、不動産会社営業勤務。弁護士に転身後、不動産・建築その他様々な案件に精力的に取り組む。我が日本国の伝統・文化をこよなく愛する下町生まれの江戸っ子。
事務所名:アルティ法律事務所
事務所URL:http://www.arty-law.com/