2013年07月02日 21:30 弁護士ドットコム
徳島県松茂町にある特別養護老人ホーム(特養)で、こんな事件が起きた。報道によると、この特養では、今年1月までに亡くなった入所女性3人の預貯金を引き出し、納骨した寺への永代供養費として約850万円を支払っていた。この女性らは生前「身寄りがない」と特養に申告していたという。
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死亡した入所者の財産については、施設側が市町村を通じて「相続人の有無」を照会し、もし相続人がいなければ、故人の財産は国に納めるというのが、通常の手続きだ。この特養はそうした手続きをとっていなかったため、財産処分が不適切として、徳島県から改善の勧告を受けた。
今後も、このように親族に看取られることなく、亡くなる人は増えていくだろう。たとえばもし、何かの縁で身寄りのない独居老人を看取ることになり、葬儀や供養を、故人の預金からとり行った場合はどうなるのだろう。善意でも問題があるのだろうか。村上英樹弁護士に聞いた。
●相続人でなければ、財産を処分できないのが原則
「基本的に、故人の財産は、本人が死亡すれば『相続財産』になります。相続人がいる場合は相続人の財産ですし、相続人がいない場合は国のものになるのが原則です」
このように村上弁護士は「原則」を説明する。
「ですから、看取った人といっても、その人が相続人でなければ、本人の財産を処分する権限はありません。原則としては、葬儀費用等も出せない、ということになります」
では、例外的に、故人の財産を葬儀費用に回すことはできるのだろうか。
「そうですね。実際には、人が死亡したとき、看取った人としては、葬儀もせず遺体をそのままにしておくわけにはいかない場合があるでしょう。
やむを得ない場合には、民法上の『事務管理』(697条)として、必要最低限度の葬儀や供養のために本人の財産から費用を支出することが許されるケースもあります」
●多額の永代供養費の支出は通常許されない
今回の特養のように、葬儀費用に加えて、寺に永代供養費をおさめることもOKなのだろうか。
「仮に費用を支出するとしても、あくまで必要最低限度でなければなりません。したがって、たとえば多額の永代供養費の支出などは通常できません」
このように述べたうえで、村上弁護士は次のようにアドバイスしている。
「看取った人の立場で、本人の財産から葬儀費用を出して良いか悩んでしまう場合や、そもそも葬儀費用さえ出ない場合は、市町村の役場か社会福祉協議会に事情を話して、相談されることをおすすめします。
このような場合、市町村側で法律に定められた葬儀をすることになる場合が多いと思われます(墓地埋葬法・行旅病人及行旅死亡人取扱法・生活保護法・老人福祉法等)」
高齢化社会が進むにつれて、家族に看取られることなく、亡くなる人が増えていくのは避けられない。そのような事態に対応するため、法制度や行政を時代にあったものにしていく必要があるのだろう。
(弁護士ドットコム トピックス編集部)
【取材協力弁護士】
村上 英樹(むらかみ・ひでき)弁護士
主に民事事件、倒産事件(債務整理含む)を取り扱い、最近では、交通事故(被害者)、先物取引被害、医療過誤事件も多い。法律問題そのものだけでなく、世の中で起こることそのほかの思いをブログで発信している。
事務所名:神戸シーサイド法律事務所
事務所URL:http://www.kobeseaside-lawoffice.com/