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暴対法改正後、北九州で「初適用」 暴力団員への「直罰規定」ってどんな制度?

2013年06月30日 12:30  弁護士ドットコム

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福岡県警は6月17日、暴力団対策法(暴対法)の改正により昨年導入された「直罰規定」を初めて適用し、北九州市内の暴力団工藤会系組員を再逮捕した。組員は、同市内の飲食店経営者にみかじめ料を要求したとして、暴対法違反と恐喝未遂の疑いが持たれている。


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直罰規定は「特定危険指定」を受けた暴力団のメンバーが、警戒区域内で、暴対法で禁止されている不当行為をしたとされる場合に、中止命令を経ずに逮捕できるようにした制度だ。工藤会は昨年12月、この指定を受けていた。



耳慣れない単語ばかり出てくるが、この直罰規定、いったいどんな制度で、なぜ導入されたのだろうか。日弁連の民事介入暴力対策委員会で副委員長をつとめる中井克洋弁護士に聞いた。



●直罰規定は暴力団員の「しかえし」を防ぐために導入された



「改正前の暴対法でも、暴力団員によるみかじめ料の要求行為(暴力的要求行為)などは禁止されていました。ただし、以前は違反者をすぐに逮捕できず、まず『中止命令』を出す必要があったのです。逮捕して処罰できるのは、その中止命令に違反した場合だけでした。それを改正暴対法により、暴力的要求行為があったとき、すぐに逮捕して処罰できるようにした規定が『直罰規定』です」



――なぜそれを変える必要があった?



「この『すぐに逮捕できない』というのは、裏返すと『しかえしを防ぎにくい』ということです。つまり、1回までは、みかじめ料を要求しても大した制裁はなく、しかも要求者が身近にいるままなので『しかえし』を防ぎにくい、ということです。実際に5つの指定暴力団の本部が所在する福岡県では、特に北九州市地区を中心に、みかじめ料などの要求を断ったり、地元で暴排活動をしている人たちに対する報復とみられる事件が数多く起こりました」



――どんな事件がどれぐらい起きた?



「福岡県では、2007年から2012年6月までの間に、60件もの襲撃事件が起こっています。その内容も拳銃を使った殺人、会社社長宅への手りゅう弾の投げ込み、事業所への放火など、極めて悪質で危険なものでした。




2012年7月に成立した改正暴対法に直罰規定が盛り込まれたのは、福岡県、北九州市、福岡市などの悲痛な要請を受けてのことでした」



――直罰規定が適用されるのはどんなとき?



「直罰規定が適用されるのは『特定危険指定暴力団等』に指定された団体の構成員が『警戒区域内』で暴力的要求行為をしたときです。



なお、特定危険指定のための条件は、次の2つです(暴対法30条の8第1項)。



(1)指定暴力団員やその要求や依頼を受けた者が、暴力的要求行為に関連して、人の生命や身体に重大な危害を加える方法により暴力行為を行ったと認められること



(2)その指定暴力団員の所属する指定暴力団の構成員等が、さらに同様の暴力行為を行うおそれが認められること



この2条件をクリアした場合に、公安委員会が1年以内の『期間』と『警戒区域』を定めて、その指定暴力団を『特定危険指定暴力団等』として指定できます」



「直罰規定」が導入された背景には、このようにかなり差し迫った地域事情があったようだ。一刻も早く「特定危険指定」の必要のない社会が実現してほしいとは思うが・・・・。


(弁護士ドットコム トピックス編集部)



【取材協力弁護士】
中井 克洋(なかい・かつひろ)弁護士
弁護士法人広島メープル法律事務所 代表弁護士
司法研修所第46期。平成6年4月 弁護士登録。広島弁護士会民事介入暴力問題対策委員会 委員長。日本弁護士連合会民事介入暴力対策委員会 副委員長。
事務所名:弁護士法人広島メープル法律事務所
事務所URL:http://www.maple-law.jp/