2013年06月17日 21:00 弁護士ドットコム
橋下徹大阪市長の従軍慰安婦にかんする発言をめぐって、弁護士や市民ら約700人が5月下旬、橋下氏を「懲戒処分」とするよう大阪弁護士会に請求した。一連の発言によって「弁護士の品位を害した」というのが、その理由だ。この発言について、弁護士ドットコムに登録している弁護士にアンケートしたところ、「懲戒請求には反対」とする弁護士が多数を占めた。
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大阪弁護士会に対する懲戒請求書では、橋下氏が慰安婦を「当時は必要だった」と発言し、在日米軍に風俗業の活用を求めたことを「弁護士の社会正義の実現、基本的人権擁護義務に反する異常な発言だ」と批判している。
一方、橋下氏は「今回の発言は弁護士とは全く違う立場でやっている」と主張し、「懲戒請求権の乱用だ」と反発する。また、大阪弁護士会に所属する他の弁護士からも、「弁護士としてではなく、政治家としての発言なので、懲戒請求は間違っている」と批判する声が出ている。
懲戒請求を受けて、大阪弁護士会は処分の必要性を検討することになる。はたして、今回のような発言を理由として、橋下氏に懲戒請求をおこなうべきなのだろうか。弁護士ドットコムに登録している弁護士に意見を聞いたところ、次のような結果になった。
●89%が「懲戒請求に反対」
弁護士ドットコムでは、橋下氏に対する懲戒請求に賛成か反対かについて弁護士にたずね、以下の3つの選択肢から回答を選んでもらった。64人の弁護士から回答が寄せられたが、次のように「懲戒請求に反対」とする意見が最も多かった。
(1)橋下氏に対する懲戒請求に賛成
→6人
(2)橋下氏に対する懲戒請求に反対
→57人
(3)どちらともいえない
→1人
このように、回答した弁護士の89%にあたる57人が<懲戒請求に反対>と答えた。その理由として、次のような意見が見られた。
「政治家においても、自身の政治的信条や政策を述べる自由は、表現の自由(憲法21条)として、最大限保障されるべきである。政治家が行ったその発言内容の妥当性は、選挙において有権者の投票行為によって判断されるべきである。弁護士会が介入すべき問題ではない」(秋山亘弁護士)
「政治家がたまたま弁護士資格を有しているからといって、政治家としての発言の当否を強制加入団体である弁護士会が『審査』するというのは、筋が違うのではないかと考えます。これが悪い前例にならないか、非常に危惧されるところです」(古金千明弁護士)
「自己の政治的主張と異なる主張がなされれば、懲戒請求をされるということになれば、発言をすることを躊躇してしまうことになってしまうと思います。懲戒請求という形ではなく、橋下市長の発言に対して反対言論を持って戦えばいいのだと思います。懲戒請求をすることは、自分の立場と反対の人間の発言を封殺する姑息な手段だと思います」(鈴木祥平弁護士)
また、次のように弁護士法の問題点を指摘する声もみられた。
「もともと職務の内外を問わず、品位を害するような非行があった場合には懲戒の対象になるという弁護士法の規定自体に、懲戒事由が不明確で恣意的な運用を許しかねないという問題がありますが、今回の懲戒請求はかかる問題を浮き彫りにしていると思います」(秋山直人弁護士)
●「懲戒請求に賛成」という意見は9%
一方、回答者のうち9%にあたる6人の弁護士が、<懲戒請求に賛成>という意見を支持した。その理由は、次のようなものだ。
「政治家としての発言であるから許されるべきだとする意見があるが、弁護士法は『職務の内外を問わずその品位を失うべき非行があつたとき』と規定しており、弁護士としての職務外であっても、『品位を失うべき非行があったとき』は懲戒事由に該当する」(川村真文弁護士)
<どちらともいえない>という回答した弁護士は1人だった。次のような意見があった。
「本件で懲戒されるべきかどうかについては微妙なところではあります」(三輪和彦弁護士)
橋下氏の一連の発言はまだ波紋を広げている。橋下氏は「光市事件」に関する言動によって、2010年に弁護士会から懲戒処分をうけたことがある。そのときは、「刑事弁護の社会的品位をおとしめた」というのが懲戒理由とされた。今回の発言をめぐっては、弁護士たちから「個人的には賛成しない」という声がみられたが、いずれにせよ言論の場でまず、評価・批評をうけるべきものなのかもしれない。