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万引き客の「顔写真」を店内に貼り出し 「やりすぎ」ではないのか?

2013年06月14日 21:20  弁護士ドットコム

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国内の「万引き犯」の認知件数は年間約13万5000件にもおよぶ(2012年・警察庁調べ)。「何としても被害を抑えたい」と、躍起になっている小売店が多数あることは想像に難くない。そんななか、大阪のある鮮魚店が実施している「万引き対策」が話題を呼んでいる。


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朝日新聞などによると、年間数十件の万引き被害に悩んでいたこの店では、万引き行為を見つけた場合、警察に通報する代わりにその人の顔写真を撮影し、店内に貼り出すという「自衛策」を行っているという。


商品1点につき1万円の「罰金」を支払えば、撮影をまぬがれることができるようだが、店内には実際に「私は万引きしました」というカードを持たされた人の写真が貼ってある。さらに、万引きを発見したら徴収した罰金をそのまま渡すとして、一般客に「店への通報」も呼びかけているという。


店側としては窮余の一策のつもりかもしれないが、こういった行為は「私刑」ともいえ、プライバシーなどの観点から「やりすぎ」といえないか。日本の法律上、こういった「自衛策」は許されるのだろうか。中川彩子弁護士に聞いた。


●私的な制裁は「強要罪」や「名誉毀損罪」にあたる恐れも


「日本では、一般人が勝手に誰かを裁いて、『私刑』を押し付ける事はできません。法律の定める手続きによらなければ、誰も刑罰を受けないと決まっている。つまりは『国家が刑罰権を独占している』のです。


だから、犯罪が起こった場合は、警察に通報するなど国家に処分をゆだねるのが原則です。たとえ万引き犯であっても、お店が私的に制裁を加えるのは問題です」


具体的には、どんな問題があるのだろうか。


「たとえば、『私は万引きしました』というカードを持たせて写真を撮るのは、無理に従わせようとすると、強要罪(刑法223条)になる可能性があります。また、その写真を店内に張り出すのは、名誉棄損罪(刑法230条)とされるおそれがあります。


もし仮にお店側が『本人の承諾があった』と主張しても、これらの罪は成立する可能性があります。なぜなら、お店側の強要により、やむなく承諾せざるを得ない状況であったとすれば、『承諾は真意ではなかった』と判断されるからです」


逆に、店側の犯罪になってしまう可能性もあると?


「そうです。さらに、この『罰金』1万円も危ういといえます。被害がごく少額であっても一律に1万円を支払わせるとするならば、その請求の根拠が乏しいからです。不当な請求といえる場合もあるでしょう」


そうなると、店側としてできることは限られてくる。


「万引き被害はお店の死活問題にもなりかねないので、このような過激な防衛策をとるお店の立場も十分理解はできます。ただ、上記のような問題に加えて、誤認逮捕をしてしまう危険性もあります。やはり万引き犯への対応は、警察に任せるのが望ましいでしょう」


中川弁護士はこう締めくくった。


実は筆者も以前、万引きに間違われて呼び止められ、カバンの中までチェックされた経験がある。その時はすぐに誤解がとけ、店側の謝罪を受けて穏便に済ませたが、もし偶然カバンに他店で購入した商品が入っていたらどうだっただろうか……。そんな実体験に照らして考えても、やはり店が直接、人を裁くということ自体が、どだい無理なのではないかと思う。


(弁護士ドットコム トピックス編集部)



【取材協力弁護士】
中川 彩子(なかがわ・あやこ)弁護士
中小企業の企業法務や相続、離婚などの身近な法律問題を中心に幅広い案件を取り扱う。近年、特に相続・事業承継に力を入れており、円滑な相続・事業承継の実現のために地方紙連載やセミナー等で活動中。
事務所名:弁護士法人柴田・中川法律特許事務所
事務所URL:http://www.shibata-law.jp/