2013年05月30日 12:21 弁護士ドットコム
スマートフォン「iPhone5」が対応する高速通信サービス「LTE」をめぐり、大きな動きがあった。KDDIが展開する「au 4G LTE」のエリアカバー率に関する広告が、景品表示法違反(優良誤認)にあたるとして、消費者庁が5月21日、同社に対して再発防止などを求める措置命令を行なったのだ。
【関連記事:パズドラへの「同時ログイン攻撃」 ネットで呼びかけたら罪になる?】
同庁の発表によると、iPhone5が発売された昨年9月から12月にかけて、KDDIは自社のウェブサイトやカタログで「4G LTE」のサービス内容を告知し、iPhone5で「受信時最大75Mbps」「サービス開始時より全国主要都市をカバー。2012年度末には実人口カバー率約96%に一気にエリア拡大」などと表記していた。しかし実際には、iPhone 5を使用した場合に「75Mbpsサービス」を利用できる地域は、当初から極めて限られており、2013年3月末時点でも実人口カバー率は14%しかなかった。
実は「75Mbpsサービス」を広く利用できるのは、iPhone5ではなくAndoroid搭載のスマートフォンだったのだが、KDDIのウェブサイトやカタログでは、あたかもiPhone5でも全国の広い地域で同サービスを利用できると「誤認」させるような表記がされていたという。
auユーザーの中には、LTEの高速通信に魅力を感じて、iPhone5の購入を決めた人もいるはずだ。そんな人は、KDDIの表示違反を理由にして、契約を途中で解除できるだろうか。その際、通常は負担しなければいけない違約金を払わずに済ませられるだろうか。企業の契約問題に詳しい高島秀行弁護士に聞いた。
●その人にとって「75Mbps」がどこまで重要だったかがポイント
「KDDIとの契約を違約金なしに解消したいという人が、どのような主張をできるか考えてみましょう。選択肢としては、消費者契約法の不実告知による取り消し、民法上の錯誤による無効(民法95条)、詐欺による取り消し(民法96条)、債務不履行による解除(民法541条)があります。
ただ、いずれの法的な主張によっても、今回の表示が契約者にとって『重要』だった事が必要になります。つまり、『受信時最大75Mbps』『全国主要都市、実人口カバー率約96%』という2点が、契約するかどうかを左右するような問題だったかという話です」
――普通はそうではないのか。
「通常の契約者にとって、『iPhone 5』を購入・利用する際に重要なのは、電話やメールの送受信、インターネットの閲覧、動画やゲーム、アプリのダウンロードが円滑にできることです。サービスを円滑に利用し、ある程度満足していた契約者にとっては、『最大75Mbps』はさほど重要ではなかったと言えます。
逆に、自分は75Mbpsの速度が重要で、現在の速度では不十分だと具体的に言える契約者は、最初に挙げたいくつかの法的主張により、違約金なく契約を解消できそうです」
――宣伝を信じて、他社から乗り換えた人もいるはずだが。
「一方で、『受信時最大75Mbps』『全国主要都市、実人口カバー率約96%』でなければ、ソフトバンクと契約していた、あるいはソフトバンクから乗り換えなかったという契約者もいると思います。そういう主張が認められる可能性もあります。
しかし、その際にも、受信速度が理由で契約した、あるいは、乗り換えた、という説明が必要になりそうですし、それが認められるとは限りません。『受信時最大75Mbps』の速度でなくてもサービスは利用できますし、また乗り換え割引などの特典もあるからです。裁判所の判断は、訴訟を起こしてみないとわからないというのが本当のところです」
高島弁護士は結論として、「裁判所がこの『重要性』を広く認めてくれれば可能性がないわけではありませんが、KDDIが争ってきた場合、違約金なしでの契約解除が認められるのはなかなか難しいように思えます」と話していた。
(弁護士ドットコム トピックス編集部)
【取材協力弁護士】
高島 秀行(たかしま・ひでゆき)弁護士
「ビジネス弁護士2011」(日経BP社)にも掲載され、「企業のための民暴撃退マニュアル」「訴えられたらどうする」「相続遺産分割する前に読む本」(以上、税務経理協会)等の著作がある。ブログ「資産を守り残す法律」を連載中。
http://takashimalawoffice.blog.fc2.com/
事務所名:高島総合法律事務所
事務所URL:http://www.takashimalaw.com