2013年05月24日 22:10 弁護士ドットコム
「消費税還元セール」を禁止する特別措置法案がこのほど、衆院で可決された。来年4月に消費税が8%に上がるのに合わせた立法。もし成立すれば「消費税還元」などのキーワードで、店側が消費税を受け取っていないようなイメージを与えるセールは認められなくなる。
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これに対して、大手小売業者からは反発が起きた。ユニクロを展開するファーストリテイリングの柳井正会長兼社長は記者会見で「理解できない。これで先進国なのか」と切り捨てた。確かにセールの手法や宣伝表現にまで立ち入って禁止するのは、自由な市場競争を過度に制限することになりかねない。
ただ市場競争といえども聖域ではなく、独占禁止法などの制限もある。法律の狙いはどこにあるのだろうか。今の日本で、この法律は「アリ」なのだろうか。嶋津裕介弁護士に聞いた。
●法律の本質は「小売店による納入業者への消費税転嫁の禁止」で、独禁法の趣旨に沿うもの
——「消費税還元セール禁止法案」にはどんな意味があった?
「この法律は『消費税還元セール禁止法案』として報道されたこともあり、小売店の自由な価格決定を縛るかのような印象を与えました。しかし、問題となったのはあくまで『セールの表示内容』を規制するというもの。具体的には『消費税を(消費者等に)転嫁しないような表示』がダメだということでした。
結局、政府は『消費税の文言を含まない表示は容認』という方向で見解をまとめ、衆議院で『消費税との関連を明示した表示を禁止する』と修正されて、法案は可決されました。具体的な禁止例は法律成立後に、ガイドラインとして示されるようです」
——セールの表示内容規制について一定の方向性が出たようだが、表示についてガイドラインを守ればそれでいいのか。
「この法案の本質は表示の禁止よりもむしろ、小売店が納入業者に商品の値引きを求め、または買い叩くことで消費増税分を納入業者に転嫁することを禁じ、監視を強めることにあります。小売店が増税後も小売価格を据え置きつつ、その負担を自社の利益で吸収すればよいですが、そうではなく納入業者に増税分を払わないことで負担を転嫁することを禁止しています。これは独占禁止法上の優越的地位濫用規制の一種ともいえ、自由競争の基盤を確保するのが狙いです」
嶋津弁護士は「すでに来春に向け、小売店と納入業者との間では価格交渉が始まっていると聞きます。小売業者はコンプライアンスの観点から、十分に注意を払う必要があるでしょう」と、小売業者へ注意喚起していた。
今回の立法は、日本でも小売業が大手に集約されてきて、購買力を付けてきたことの表れとも言えそうだ。立法でセールの「表示」を規制することが、「消費税転嫁」の制限にどこまで繋がるのか。規制の効果と今後の行く末に注目していきたい。
(弁護士ドットコム トピックス編集部)
【取材協力弁護士】
嶋津 裕介(しまづ・ゆうすけ)弁護士
弁護士法人栄光 栄光綜合法律事務所 社員弁護士
大阪弁護士会・研修センター運営委員会 副委員長、司法修習委員会 委員
事務所名:栄光綜合法律事務所
事務所URL:http://www.eiko.gr.jp/