2013年05月22日 20:30 弁護士ドットコム
俳優の反町隆史さん、松嶋菜々子さん夫妻の飼い犬に噛まれたことが原因で、マンション住人が転居したとして、管理会社が夫妻に賠償を求めていた裁判で、東京地裁は5月14日、夫妻に385万円の賠償を命じる判決を下した。
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報道によると、反町さん夫妻と同じフロアに住んでいた住人の妻が2011年5月、マンション内で反町さん夫妻のドーベルマンに噛まれ、全治11日間の怪我を負った。その後も現場を通るたびに気分が悪くなるため、転居したという。
マンション管理会社はこういった経緯から、途中解約の際に通常求めている賃料2カ月分の違約金(350万円)を、転居した住人に請求しなかった。判決はこの部分について「管理会社が損害を肩代わりした」と認め、弁護士費用と合わせた385万円を賠償するよう命じた。
ただ今回、もともと管理会社が求めていたのは約5220万円。その大部分は「もし住人が転居しなければ、契約期間満了までの2年数カ月間に発生したはずの賃料収入」だったが、この部分の請求は却下されたかっこうだ。月額賃料175万円の物件ともなれば、代わりの入居者を見つけるのも一筋縄ではいかないのではと思われるが・・・・。
今回、管理会社が求めていた「発生したはずの賃料」の請求は、なぜ却下されたのか。判決のポイントを不動産管理について詳しい高島秀行弁護士に聞いた。
●「間接的な被害者」への賠償は限定される傾向にある
「今回、管理会社は『間接的な被害者』です。加害者の犬に噛まれた直接的な被害者ではありません。間接的な被害者への損害賠償については、『直接的な被害者への損害賠償と同視できる』場合にのみ認められるというのが判例の原則です。加害者の賠償範囲が広がり過ぎないようにするためです」
——『同視できる』というのはどんな場合か。なぜ違約金2カ月分の賠償は認められたのか。
「2カ月分の違約金は、もともと退去した被害者が管理会社に支払う義務があったお金です。今回、不動産管理会社は事情を鑑みて被害者に違約金を請求しませんでした。しかし、もしそうでなければ、本来、被害者が管理会社に対して違約金を支払ったうえで、加害者に違約金分の損害賠償を請求するという構図になっていたでしょう。この本来の構図から考えても、違約金2カ月分は『直接的な被害者の損害と同視』できる。裁判所はそう判断したのだと推測します」
——では、賃料が認められなかった理由は?
「逆に『管理会社が受け取れなかった賃料の損害』は、上記のように考えても、『犬に噛まれた被害者の損害』とは同視できません。裁判所はそう判断して、損害賠償を認めなかったのだと思われます」
それにしてもこの金額。桁が違う。管理会社の担当者は、代わりの入居者が決まるまで、さぞや気を揉んだことだろう。
(弁護士ドットコム トピックス編集部)
【取材協力弁護士】
高島 秀行(たかしま・ひでゆき)弁護士
「ビジネス弁護士2011」(日経BP社)にも掲載され、「企業のための民暴撃退マニュアル」「訴えられたらどうする」「相続遺産分割する前に読む本」(以上、税務経理協会)等の著作がある。ブログ「資産を守り残す法律」を連載中。
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事務所名:高島総合法律事務所
事務所URL:http://www.takashimalaw.com