2013年05月07日 20:50 弁護士ドットコム
初夏を迎え、ビールを飲むのが美味しい季節になってきた。職場の同僚や友人との飲み会で居酒屋を利用する人も多いだろう。最近は個人が経営する昔ながらの居酒屋にかわって、大手チェーンによる店舗がかなり増えているが、どちらでも最初に提供されることが多いのが「お通し」だ。
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価格は300~500円ぐらいのことが多く、ちょっとした煮物や漬物など内容は店舗によって様々だ。事前に店員が客に「お通しはいりますか?」と確認してくるならともかく、何も言わずに勝手に卓の上に出てくることもある。「お通し」の制度を知らない外国人が会計時に店側とトラブルになることもあるという。
店側からすれば「座席料」「チャージ」という意味合いもあるかも知れないものの、そもそも自分が注文していないものに対して代金を支払う必要はあるのか。消費者問題に詳しい本橋一樹弁護士に聞いた。
●店側の説明がなくても食べたら契約成立!
本橋弁護士は居酒屋での飲食にも、一種の契約が成り立っているとしたうえで、こう説明する。
「まず、『お通し』の提供は、どのような契約になるかという観点から分析しましょう。居酒屋で注文して、飲食物の提供を受けるという契約は、言葉のままですが、『飲食物提供契約』です。民法が直接規定していない『無名契約』といったところでしょう。この場合、契約が成立するためには、一方が契約を申し込み、他方が申込を承諾する必要があります」
では、客側からは注文しないお通しは、どういう扱いになるのだろう?
「入店時の説明、あるいはメニュー等で『お通し注文が義務づけられている(お通しが必須のセットになっているなど)』場合には、お通し料金の拒否をすることはできません。それはお店のルールであって入店に当たっての契約の事前説明のようなものです。嫌ならば入店をやめるか、飲食をやめてお店から出ていけばよいだけのことです」
説明や記載がない場合は?
「事前に説明等がない場合は話が違います。その場合、『お通し』について客は『申し込み』をしていないので『承諾』もあり得ず、契約が成立していません。ですから、注文もしていない食べ物が出てきたら、『注文していない(申し込んでいない)』といえば済むということになります」
そういう場合は、知らんぷりをして食べておけば「得」になる?
「いえ、お通しを居酒屋側が勝手に出してきたとしても、それは法的に分析すれば、申し込みを誘っている(申込の誘因)ということになりましょう。もし、納得して食べてしまえば、『誘因』に応じて客側が申込をし、お店は承諾したことになって、契約成立となり、代金を支払う義務が生じるでしょう。
頼んでもいない飲食物が勝手に出てきて、それを食べたくない場合には断るべきです。断れば当然、その代金を支払う義務はありません。契約は成立していないからです。少々セコイですが、これが法律論です」
本橋弁護士は「ただ、数百円のために訴訟を起こす人はいないでしょう。実際には払ってしまった方が安上がりでしょうね」と付け加えていた。
確かに、たかだか料理一品。ごね得を狙うよりは最初にきちんと確認しておく方が、気持ちよく飲めそうだ。
(弁護士ドットコム トピックス編集部)
【取材協力弁護士】
本橋 一樹(もとはし・かずき)弁護士
1962年、東京都世田谷区生まれ。94年に弁護士登録(東京弁護士会)。東京を拠点に活動。2004年から2008年にかけて、非常勤裁判官(民事調停官)を務める。得意案件は離婚、遺産相続、消費者被害、建築紛争など。趣味は時代劇やオーディオ。
事務所名:本橋一樹法律事務所